ダメージコントロールが不可欠の高市政権

こんにちは 
ほんとうにお久しぶりです。ゴールデンウィークを狙っていたかのように、週刊文春にまた高市政権に関する重大疑惑を指摘する記事が掲載されました。

その記事は、去年10月の自民党総裁選での番狂わせとも言える高市早苗総裁の誕生とともに異常なまでに高まっていた高市人気がどう形成されていたのかについて、非常に興味深い事実を発掘しています。

また太平洋を隔てたアメリカで、ドナルド・トランプが2度目の大統領選に勝利したこととも通ずる、衝動的で攻撃的なSNSメッセージの乱発が人間心理の意外な盲点を衝いてブームを巻き起こす過程に関して、われわれが警戒すべき反省材料も提供しています。

そこで今日は、高市現首相の公設第一秘書が直接指示を出して、自民党総裁選の時期には他の総裁候補について、また今年2月の衆議院総選挙に際しては他党の重鎮議員たちについて誹謗中傷動画を大量に制作させ、各種SNS媒体にばらまいていた事件について書こうと思います。

縛りの利かないSNSで起きていた異常事態

この事件が明るみに出たきっかけは、サナエトークンという怪しげな暗号資産で高市陣営が一儲けを企んでいたことが暴露されると、高市本人も、高市事務所もこの暗号資産には一切関与してないと言い張って、サナエトークン発行元の松井健に全責任を負わせようとしたことでした。

これに反発した松井が、じつは高市陣営ではサナエトークンだけではなく、自民党の高市以外の総裁候補者や、他党の重鎮政治家を誹謗中傷する動画も量産していて、自分はその制作を高市の公設第一秘書、木下剛志から直接指示を受けやっていたとぶちまけたわけです。

下でご覧いただくのがウェブ版『週刊文春』とも言うべき、『文春オンライン』トップページで4月29日付の最初の見出しになった第1報です。


去年10月の自民党総裁選当時は、小泉進次郎が最有力候補と言われていたので、誹謗中傷動画の約7割は小泉を狙い撃ちにしていたようです。おそらくこの総裁選で逆転当選を果たしたことに味を占めた高市陣営は、今年2月の総選挙ではもっと大々的に他党の大物候補に対する誹謗中傷動画を量産します。

現在、日本の公職選挙法では選挙ポスター専用の掲示板の割り当てられた数字の場所に貼るポスター以外で候補の氏名を表示することには、厳重な縛りがかかっています。しかし、SNS上で流される動画はほぼ規制なしなので、アナログ世界に置き換えたら次のような風景がデジタル空間では展開されていたということです。


この2つの選挙戦を通じてどれほど、自民党内の他候補や他党の大物たちを誹謗し、高市を賛美する動画がつくられていたかというと、右下の表に出ているとおりです。


ご注目いただきたいのは、左側の似顔絵に添えて木下本人が書いたコメントで、いずれれも何度か議員を務めたことのある大物政治家たちについて「害獣を駆除する」といったきわめて粗暴なことばを遣っていることです。これは後ほど詳しく説明させていただきますが、かなり計算ずくでやっていたことと思われます。

木下=松井コンビが精力的に制作し、さまざまなネット媒体で流した動画の累計再生回数は凄まじいものになっていたことが次のグラフにはっきり出ています。


高市についての動画のほうが自民党についての動画の1億回強よりずっと多い1億6000万回近く再生されていて、しかもそのうち1億3000万回はポジティブな内容、約2000億回が中立、ネガティブな内容の者はおそらく500万回程度しか再生されていなかったのです。

不自然なほど高い支持率には納得のいく理由があった

私は、今回の総選挙前後に各種調査期間が発表していた高市政権に対する支持率の高さには釈然としないものを感じていました。

次の節でご覧いただく大きな方向性についても、最後の節で触れる平然と庶民の負担を重くする方向に公約を破る政治姿勢についても、高市政権に対してこんなに高い支持率が続くはずがないと思っていたからです。

しかし、左下のグラフに出ているとおり、日本初の女性首相といった話題性ではとうてい説明できないほどの高い支持率が持続しているのです。


右側のコミュニティノートは、30代の固定電話保有率はたった8.3%と指摘しています。ニュアンスとしては、30代で誰からとも分からない電話の呼び出し音に飛びついて受話器を取るのは、アンケートなどに答えるチャンスを心待ちにしている筋金入りのネトウヨ諸君ぐらいのものだろうという憶測でしょうか。

それも多少はあるでしょう。しかし、もっと説得力のある高支持率の秘密が、最近公表されたニューヨーク大学による「SNS上ではどんな言説が人を惹きつけるか」という調査報告で明らかにされています。

結論を、次のイラストに付けた3行のタイトルでお確かめください。


内容をかいつまんでご紹介します。まず、人は客観的で中立の立場からさまざまなデータを検討し、証拠を論理的に積み上げた結論より、まずむき出しの怒り、むかつき、こいつらよりオレのほうがずっと立派じゃないか、と思えるような表現のほうに6倍も多く反応するそうです。

さらに、そこに罵倒語が混じっているとさらに惹きつける人の人数が20%増えます。太古の昔、まだ火も毛皮も有効に利用できていなかった頃の人類は、大型肉食獣の格好の獲物でした。

当時人間同士で発し合う音声コミュニケーションは、まだ十分にことばの体裁を整えていなかったかもしれませんが、瞬時に「逃げろ!」か「戦え!」のどちらか、分かりやすいことが必要不可欠だったのです。

アナログ世界ではことばが洗練されてくるにつれて、対面接触でことばが交わされるたびに、本能的と言うより末梢神経の条件反射のような反応について、反復の中で理性的に判断する余裕が生まれていって、大勢の人を集めた演説などを除けば、激しいことばの勢いに吞まれてしまうこともなくなります。

ところが、SNSの世界で一斉送信される情報の中で怒りむかつきの引き金を引くようなことばを次々にたたみかけられていくと、対面接触でことばをやり取りしていれば当然疑問が生じるような言説を、いつの間にか疑問もなく受け入れていたといったことが起きるのです。

2016年の大統領選を民主党のヒラリー・クリントン候補とのあいだで戦ったドナルド・トランプは、当時まだツィッターと呼ばれていたXで、まさにこの怒りの引き金を引く短いメッセージの連発で、大番狂わせを演じて勝利したのです。

次の節でご紹介する憲法調査会で高市が使った「おめでたい」という表現や、公設第一秘書の「害獣を駆除」といった表現を見ると、高市陣営にはこうした話法を使いこなす能力の持ち主が少なくともふたりはいたわけです。

アメリカではトランプが4年の私服器を経て2期目に入っていますが、賢い日本の大衆はいかにも単純明快に見える結論をズバッと言ってくれる政治家の怖さは1期だけで悟って、迂遠なようでも証拠を論理的に積み上げた結論を出そうとする政治家を求めるようになることを、私は確信しています。

高市早苗は日本をどこに連れて行こうとしているのか?

長年政界にいる人間ならだれでも似たようなものと言ってしまえばそれまでですが、高市早苗はとくに毀誉褒貶の激しい人物です。政界に初登場したのは、1992年の参院選に奈良選挙区から立候補して、自民党の公認がもらえず、大差で落選したときでした。

この出馬前に、高市は月刊誌『宝石』1992年8月号に掲載されたインタビュー記事で、アメリカ政治に関する驚くべき無知ぶりをさらけ出しています。

彼女は属していた松下政経塾からカネを出してもらって、1987~89年の2年間アメリカの民主党選出下院議員パトリシア・シュローダーのもとで無給の付き人的な「仕事」をさせてもらっていました。それを「立法調査官」というありもしない役職だったと自称しているのは、まあ政治家の自慢話にはよくあることでどうでもいいよううなものです。

しかし、ほとんど英語が聞き取れず、自分の身の回りでどんな政治が展開されているのかもまったく分かっていなかったことを、このインタビュー記事でさらけ出しています。以下、引用します。

政治の主人公は納税者であり、議員ではない。だから議員が業界の利益を守るために働いたり一民間企業からお金をもらって便宜供与をはかるなど、とんでもない。

「もし、そういう議員がいたとしたら、疑惑が発覚した時点で議会内での役職はもちろん、議員バッジを外さざるをえません。タックスペイヤーが許さないのです。

「そういう(アメリカの)政治風土から見ると、日本の政治は、いかにも特殊に映ります。汚職で起訴された議員がのうのうとバッジをつけているのに、愕然とするのです。」
――月刊『宝石』1992年8月号、ウィキペディア「高市早苗」のエントリーより重引

アメリカ連邦議会の議員としての仕事とは、企業、産業団体、職能団体、労組などから、議会に登録したロビイストを通じてカネをもらって、その団体にとって少しでも有利な法律や制度をつくることです。

ロビイストからの献金が主な収入で、いわゆる陣笠議員でも議員として連邦予算からもらう報酬(日本で言う歳費)の3~4倍、大物議員になると10倍とか20倍とかになります。ただし、これは正当で合法的な政治活動として認められているので、白昼堂々とやっているから「疑惑」にもならず、従って「発覚」することもありませんが。

もし、彼女がこの段階で「ははあ、アメリカ連邦議会議員というのは、こんなにおいしい商売なのか。私も日本に帰ったら議員になって右翼か暴力団か分からないような怪しげな団体や、企業の利益隠しのための幽霊宗教法人からたっぷりカネをもらおうっと」と思ったとしたら、なかなかの大物だったと言えます。

でも、そこまで分かったほど英語を聞き取る能力があったとしたら、アメリカでは議員がロビイストを通じてワイロを受け取るのは合法的な政治活動だからみんな堂々とやっているけど、日本で同じことをしたら犯罪者として捕まってしまうリスクもあることも認識していたでしょう。

とにかく、政治家として駆け出しの頃は「アメリカの議会制民主主義は素晴らしいものだ」という当時アメリカに行ったことのない日本人の大多数が共有していた誤解にもとづくとはいえ、どちらかと言えば改革派の政治家として売り出そうとしていたことは確かです。

翌1993年の衆院選でも無所属で出馬し今度は当選したのですが、新党さきがけに押しかけ追加公認を要求して蹴られています。喉から手が出るほど議席数を増やしたい小政党からも、当選という手土産付きでの公認申請を断られる位ですから、いかにキワモノ視されていたかが分かります。

1996年の総選挙では新進党といういくつかの小党派の寄り合い所帯から出馬して当選したのですが、選挙戦直後に新進党を脱党して自民党に鞍替えします。そのときの理由が「選挙戦前に党内で減税は無理と見解が一致していたのに、当時の小沢一郎党首が得票目当てに突然大型減税を主張したから」ということになっています。

つまり、その頃は財政規律派だったわけです。で、2000年の衆院憲法調査会では次のように平和憲法を頭からバカにしきった発言をするゴリゴリの右翼政治家に変貌していたというわけです。



風向きを嗅ぎとる鼻のきく政治家に成長していたのは事実でしょう。ただ、何らかの信念があって右翼を貫いてきたというわけではなく、たまたま時代の風潮に合ったポジションと思って右翼をしている」だけです。

だから、日本国民を奴隷として使役することを理想としている統一教会のお気に入りで「高市政権の誕生は我が教会の悲願」と言われても、平然としています。

ホルムズ海峡封鎖に際しては、何がなんでも自衛隊を現地に派遣したいと言って数少ない直言をしてくれる側近との関係がこじれてしまいました。

反面、自衛官の中からはナチス時代のドイツ帝国軍の軍旗のような幼児的好戦性をむき出しにした連隊旗の提案が出て、Xで散々批判を浴びて引っ込めるといった茶番も演じられることになるわけです。

とにかく、本人が右翼政治家としてこれでいいのだろうかと不安や疑問も感じているからこそ、鏡に向かって「鏡よ、鏡、日本でいちばん右翼的な女性政治家はだれ?」と問いかけたりもします。

映し出されたのが、軍服姿もりりしい自分だったから良かったものの、もし他の人が映っていたら、毒リンゴを持ってその人を殺しに行きかねないほど、自分のポジションに不安を持っているからこそ、まったく不必要な挑発をして中国を怒らせたりしているのだと思います。


外交政策と言えば、めっきり覇権国家としての貫禄が剥げ落ちてきた対米追従一本槍で、トランプ大統領に日本円で87兆円もの対米投資を、利益はアメリカ9対日本1という屈辱的な条件で確約しています。

内政では総裁選に番狂わせの勝利を得た直後から、「責任ある積極財政」という自己矛盾に満ちた方針はほぼ棚上げにして、まるで対米投資で巨額損失が出ることを見越しているかのように、ちまちました節約を高額医療費や、主婦年金とか遺族年金とかの制度改悪でやろうとしています。

問題は、そのちまちました節約をほぼ一貫して円安・インフレで苦しい生活をしている庶民の負担で、そして明らかに男性優位の日本社会で、なるべく女性の負担を重く、男性の負担を軽くという方向でやっていることです。

去年10月の自民党総裁選に出馬した5人の候補中、高市早苗ひとりだけが高額療養費の自己負担増額には反対と明言していました。

ところが、まさにその舌の根も乾かぬ2ヵ月後の財務省と厚労省の大臣折衝で、高市内閣はあっさり高額療養費の自己負担増額を認めてしまったのです。所得階層に応じた自己負担額上限の変更は左下表の通りです。


この制度変更の負担については、とくに女性のほうが重いようには見えません。

ただ、ガンの中で女性だけがかかる乳ガン、子宮ガン、卵巣ガンはどれも比較的若いうちから発症する人が多く、その人たちの大部分が正規・定時労働者の多い男性よりはるかに賃金の低い非正規・不定時労働をしているため、この制度変更もやはり女性に不利な改悪なのです。

勤労収入が少額だったり、専業主婦だったりする人たちが、夫の社会保障費負担から出ている厚生年金に「ただ乗り」して自分も年金を受け取れるのは不公平だから、主婦もまた自分で社会保障費を払わなければ、年金給付も受けられないようにしようといった議論が盛んです。

しかし、既婚・未婚を問わず、日本の女性には正規・定時の働き口があまりにも少なく、とくに主婦は働いても少額の収入しか得られないパートやアルバイト以外の選択肢が少なすぎることに対する埋め合わせといった側面があることを無視した主張が多く、高市早苗はこうした方向への制度変更を目指しているようです。

中でもいちばん深刻なのが、遺族年金に関する制度変更でしょう。

これまでは自身が30歳以上で夫が亡くなったときには無期給付されていた遺族年金が、一定の経過措置を経た上でという激変緩和策は講じていても、突然自身が60歳以上になっていないと夫が亡くなった時の無期給付は得られず、5年間だけの給付に変更されてしまったことです。


雇用条件、賃金、就労環境すべてにおいて、男性のほうが女性よりずっと有利だという事実を無視して、今までは女性のほうが有利だったけれどもこれで男女平等になったという主張にはほんとうに驚きます。

守りに入るといろいろボロが出てくるから「攻撃は最大の防御なり」ということで、高市早苗はひたすら攻めに徹しているのかもしれません。


それにしても、その攻めがあまりにも多くの場合、同性である女性を矢面に立たせる制度いじりなのは、いったいどうしてなのでしょうか。

アメリカの連邦議会で立法調査官なる役職に就いていたという話とか、学生時代はヘビメタコピーバンドの花形ドラマーだったとか、自分の経歴についてのウソが多く、あまり同性の友人がいないことについて、自分が女性たちから差別されていたと感じているのではないかと思います。

その結果、「自民党史上初の女性総裁として今までの自民党政治とは違ったことをしてくれるのではないか」と期待して2月の総選挙で自民党に投票した女性たちの期待とは裏腹に、ますます女性の地位が低下するような政策を推進しているのです。

高市政権について次々にスキャンダルが暴露されているのは、日本の女性有権者たちが既成政党への幻想を捨てて、ほんとうに男女が対等な立場で働き子育てをする社会を創出するための新党づくりに赴くきっかけになってくれるのではないかと期待しています。

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