新刊紹介『余命半年の米国経済――2026年、最後のひと花を咲かせてバブルがはじけ飛ぶ』

こんにちは 
今日はビジネス社さんから9月1日付で刊行された最新の拙著『余命半年の米国経済』をご紹介したいと思います。


とにかく最初にお伝えしたいのは、もの書き専業になって以来、前著を出版してから10ヵ月以上といちばん長い期間をかけて執筆した本だということです。テーマが広い範囲に及んでいるのもさることながら、世界情勢が激変するたびに構想を練り直す必要があったからです。

第1章 常識が通用しなくなったアメリカ金融市場

ここでは、今年のアメリカ金融市場では国債金利、とくに長期債が壊滅的に値下がりし、金利は急騰しているにもかかわらず、米ドルは過去四半世紀でもっとも大きく下げているという事実から説き起こします。

これはアメリカ経済がとどこおりなく動いていくためには必要不可欠の、外国からの投融資流入を維持することが非常にむずかしくなっていることを意味します。

ご存じのとおり、アメリカは諸外国とのモノやサービスと通貨のやり取りである経常収支でも、税収と国債発行による資金調達額と政府支出額の差である財政収支でも大赤字が続いています。

これまでアメリカがこの双子の大赤字を維持してこられたのは、アメリカが諸外国に投融資をおこなう金額よりはるかに大きな金額の投融資を諸外国からアメリカへの投融資として受け取っていたからです。

この諸外国からアメリカへの投融資を拡大する有力なメカニズムだったのが、米国債が安くなり、金利が上昇すると、その高金利を目当てに諸外国が自国通貨を米ドルに換えて米国債を買うことでした。

ですから、通常は米国債安(=金利上昇)は米ドル高を招いていたのです。ところが今年は、米国債安と米ドル安が並行で起きていて、どうにも経常赤字や財政赤字の穴を埋めることができそうもない状態に陥りつつあるのです。



しかも、アメリカは今年既発債の借り換えだけで7兆ドル強、拡大する財政赤字の手当てとして発行する新発債で約2兆ドル、計9兆ドル前後の国債発行をせざるを得ない状況です。

すでに現状でさえ、アメリカ連邦政府の利払い負担はGDPの4.6%に達しており、OECD諸国中2位である国の2倍を超える重い負担となっています。(ちなみに日本政府の利払い負担はまだGDPの1%にも達していませんから、当分アメリカほど深刻な財政危機に陥る心配はありません。)

第2章 マグニフィセント7は化けもの屋敷

ここでは、この深刻な財政負担の重さにもかかわらず、アメリカ経済は順調という印象を支えてきたマグニフィセント7と呼ばれるハイテク超大手7社の業績が、株価で見ているほどすばらしいのかという疑問を提起します。

とくに気がかりなのは、これまで比較的軽装備であまり大きな設備投資負担を必要とせず業績を伸ばしてきたマイクロソフト、アルファベット(グーグル)、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)といった企業が、この間急激に設備投資を拡大していることです。

しかも、その設備投資は生成AIを装備したデータセンター設営によるクラウド事業に極度に集中しています。

現在、さまざまな実証研究によって、先駆的に生成AIを導入した企業の大多数で期待していた生産性向上効果が出ていないという傾向が顕在化しています。

またクラウド事業自体も、最大手で30%強の市場シェアを占めるアマゾンだけは安定して30%台の高い営業利益率を確保していますが、2位で約20%のシェアを占めるマイクロソフトは、まだ安定して営業利益を出すことさえできないという状態なのです。

そこで浮かんでくる疑問があります。

これら4社が共通して設備投資額のかなり大きな部分を今や世界最大で4兆3000億ドルの時価総額を持つ企業となったエヌヴィディアからのGPU(グラフィックス・プロセシング・ユニット)の購入に充てているのは、ほんとうに購入しているのか、じつは循環取引という手法を使って架空の収益を計上しているのではないかということです。

というのも、もしこれらハイテク超大手が損益計算書どおりの収益成長を達成しているとすれば、もっと大きく伸びているはずのフリーキャッシュフローがあまり伸びていない理由を「営業キャッシュフローの大部分を設備投資に遣っている」ということにしてつじつま合わせをしている気配が濃厚だからです。

第3章 死滅への道を急ぐ引きこもり覇権国家アメリカ

ここでは、なんとなく国民経済全体が好調だと思われているアメリカが、じつは実質GDP成長率がピークを打ったのは1940年代で、それ以降は先進諸国の中でも成長率が低いほうだという事実の指摘から始めます。

なぜ「アメリカ経済はいつも好調」という印象をお持ちの方が多いかというと、アメリカでは延々とGDPに占める賃金給与のシェアが低下して、企業利益のシェアが上昇し、つまり株式市場では順調な業績向上と株価上昇を達成している企業が多いからなのです。

第二次世界大戦直後の1946年に「ロビイング規制法」という名の贈収賄奨励法が制定されて以来、アメリカでは勤労者の取り分だけではなく、中堅企業・中小零細企業の取り分も減って、有力産業の寡占数社に富が集中する傾向が顕著です。

この章ではまた、強者に優しく弱者にきびしい経済は第二次世界大戦後に始まったことではなく、アメリカがまだ英領十三植民地だった頃からの一貫した特徴であることを、歴史的実の積み重ねで論証します。

具体的には逃亡のリスクが大きい先住民、アメリカン・インディアンは絶滅に近いところまで追いやり、黒人奴隷という一目で奴隷身分と分かる人たちをアフリカ大陸から輸入することで逃亡リスクの最小化を植民地時代の初期から意図的に追求していたのです。

この方針は、強制労働でありながら黒人奴隷の労働生産性が勤労意欲が高いはずの自由身分の労働者より高い状態を達成して、奴隷ひとりが戸建て住宅1戸分に匹敵するほどの高額資産となり、独立戦争直前には奴隷州と呼ばれた諸州の州民総資産は、年間所得の約6倍、そのうち奴隷の資産価値は年間所得の約3倍という富裕地域となっていたのです。

アメリカは、この先住民の絶滅と姿かたちで一目で分かる黒人の奴隷身分への固定化という方針によって、16世紀以降の西欧帝国主義列強の植民地として誕生した国々の中で唯一、自身も帝国主義国になり上がりました。

だからこそ、いまだにアメリカはイスラエルによるパレスチナ人ジェノサイドを支持する人の比率が先進諸国の中で最高という十字架を背負っているのではないでしょうか。

第4章 どっちが怖い? DS世界政府願望とアパルトヘイト国家復活

今なおガザ地区やヨルダン川西岸地区でパレスチナ人民間非戦闘員を虐殺しているイスラエルの大義名分は「我々ユダヤ人は優秀な民族だ。パレスチナ人は劣等民族だ。優秀な民族には劣等な民族を皆殺しにしてでも、人類の進歩を担う責務がある」という論理です。

この章では、こうした人種差別を剥き出しにした思想は欧米諸国の白人にとって、決してナチスドイツやファシストイタリアの敗北で根絶されたのではなく、延々と伏流水として流れ続けていることを論じます。

そして、現在ほんとうに危険なのは世界単一政府の樹立を目指す世界経済フォーラム(WEF)のような多分に空想的なディープステイト(DS)派ではないでしょう。

「あらゆる社会問題には技術的な解決策がある。その解決策を探り出し、使いこなせるのは特定の出自の人間に限られる」という技術偏重の世界観白人(+ユダヤ人)優越主義を併せ持つ人たちこそ、たとえばイスラエルによるパレスチナ人ジェノサイドを平然と支援する危険な集団だと思います。

こうした思想を抱いている可能性が非常に高い3人の人物像から、彼らの思考様式を解明することを試みたのが、この章後半部分です。

まず挙げるべきがペイパルの上場で巨額の資金を獲得した「ペイパル・マフィア」の頭目格、ピーター・ティールでしょう。

彼はドイツ生まれですが、化学研究者だった父親の仕事上の理由から、まずアメリカに、続いてまだ人種差別政策が堂々とまかり通っていた頃のアフリカ南部諸国を転々と移住した青少年期を過ごしていました。

父親の仕事上の理由とは、南アフリカに存在するウラン鉱山を活用して、南アフリカを世界初の核兵器を保有する人種差別国家にすることだったという説もあります。

続いて、ペイパル・マフィアの中でもとくにティールと親しかった、イーロン・マスクです。彼の母方の祖父は、カナダでファシズム的な党派を立ち上げた幹部で、あまりにも人種差別的な言辞が同輩たちからも疎んじられ、堂々と人種差別ができる南アフリカに移民した人物です。

そしてティールに見こまれて、ティールが社主を務め、CIA直属のベンチャー・キャピタルによって育成された暗殺優先順位策定アプリ開発業者、パランティアのCEOに抜擢されたアレックス・カープです。彼は平然と「ユダヤ・キリスト教は他の宗教より優れているのだから、異教徒たちを殲滅することを躊躇する必要はない」とうそぶくような人間です。

終章 ここからどこへ?

勃発当初の約半日はイスラエル優勢に見えたイラン・イスラエル12日間戦争は、ミサイル発射合戦となった初日夜半から、次第にイランの戦略的優位が明らかになってきました。




今さらイスラエルへの支援を一切断ち切ると言ったところでとうてい国際社会が容認してくれるはずがないところまでイスラエルとの共犯関係を深めてしまったアメリカには、もうイスラエルとの心中という道しか残されていません。

世界最大の米国債所有国である日本は、政治的、経済的、社会的に破綻が目前に迫っているアメリカに引導を渡してやるという意味でも、商品・サービスばかりか、天然資源、不動産、労働力、企業秘密などあらゆるものを安く買いたたかれてしまうことを防ぐ円高実現のためにも、米国債の売り崩しを一刻でも早く実施すべきです

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想やご質問はコメント欄かTwitter@etsusukemasuda2 にお寄せ頂ければ幸いです。 Foomii→増田悦佐の世界情勢を読む YouTube→増田悦佐のYouTubeチャンネル

コメント

TATAMI さんのコメント…



9月18日、読了しました。
ウェブマガジンを購読中ですが、記事後の状況が加筆されており助かりました。

本書中後半あたりからの内容の壮絶さで、マグニフィセント7の稚拙な商魂などネズミ程度の悪意にしか見えなくなるのがアメリカという国の怖い所です。

とは言え、たった一社でインターネット全体を劣悪にしたGoogle始め、デジタル技術そのものの成立要因を握っているビッグテックの悪辣さはそれでもモンスター級だと思いますが…

増田さんのボルテージが一気に吹き上がる「パワポのCopilot」の件は、本書の中でも特に感情の乗った文章だと思いました。

Microsoftのみならず、Appleにしろユーザーフレンドリーにする企業努力を放棄し、歳末の道路工事のような改悪を続きているのには、仕事でもプライベートでも代替手段がなく使わざるを得ない身として辟易します。
こういった寡占企業が技術の基幹部分を握っていることで、世界全体の生産性を低下させているように感じますし、由々しき問題だと思います。

また人間がスマホを使い続ける限り、こういった悪辣な企業に無条件でマージンを取られ続けなければならないのはどうにかならないかなと思います。
日本はアメリカ経済が崩壊しても比較的影響が軽微かもしれませんが、デジタル機器に対する悪影響は避けられず、その場合の文化的・社会的混乱は経済以上に打撃になる気がします。
また、あらゆる消費文化がスマホに集中しすぎて、ビッグテックならずITが被弾した時の状況をどうも想像できません。

もはや生活の隅々まで浸透した「アメリカ」という国家の崩壊がもたらす混乱によって壮絶な変化を求められるでしょうが、我が国の存立要件から見直しせざるを得なくなる気もします。
日本は戦後80年を通じて、未だ精神的な依存を続けているように感じるからです。

アメリカ国民のキリスト教への信仰度は高いと言われますが、アメリカ在住のスピリチュアリストは今では殆ど「天使との交信」という概念が「◯◯星の宇宙人とのコンタクト」というタームに置き換わっているそうです。
アメリカは未だに「多様性」という表現を獲得できていないのか、精神文化の未熟さを感じざるを得ません。

キリスト教的「勧善懲悪」の構図をトレースした「ハリウッド映画」も、一神教の窮屈さを反映しているように思えますし、「白黒」の世界観がだいぶ日本人に定着してしまったのは残念です。

奇しくもトランプ大統領やパランティアの「悪の親玉感」はハリウッドにありがちだと感じますし、まさにラスボスのような風体を晒して「悪役」という認識ができないアメリカ人も心配です。

ハリウッドは悪を倒せば終わる話が多いですが、悪いことをしたバイキンマンも最後は手を取り合うアンパンマンの懐の深さが恋しくなります。
移民によって作られた「アメリカ」という国が未だに「多様性」の本質に気づけず、ほぼ単一民族に同化した日本人が最も「多様性」を体現しているのは誇らしくもありますし、もし日本が覇権を握る日が来るならば、いずれ帝国主義は世界から消滅しそうな気もします。
匿名 さんのコメント…
ご出版おめでとうございます(買わせてもらいます)。
AI業界の循環取引。ようやく指摘され始めたようです(疑惑、可能性から、ほぼ確定のような状況)。
増田悦佐 さんの投稿…
TATAMI様
コメントありがとうございます。
私は、平均的な日本人はまだ、先進諸国の中でネット依存症患者が少ないほうで、なんとかマグニフィセント7総崩れの中でも日常生活に支障を来たさずに済むのではないかと楽観しています。
また、一神教はたしかに厄介な問題ですが、ごく最近読んだ『白光』という長編歴史小説に触発され、ロシア正教の聖像画の古風さには、あらゆる一神教の中でもっともまっとうな信仰の世界が垣間見えるのではないかなどと考えております。
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様:
コメントありがとうございます。日経が取り上げるようになったのですから、そろそろ終わりが見えてきましたね。