アメリカのハイテク株は中国経済と一蓮托生

こんにちは
第二次天安門事件の際に、戦車隊を動員して大衆の抗議活動を弾圧したことで悪名高い江沢民元中国国家主席が亡くなった2022年11月30日の当日、中国江蘇省徐州市では暴動化しつつある反ロックダウンデモを鎮圧するため、ついに戦車隊が出動した模様です。

そこで今日は、反ロックダウンの抗議行動が過激化する背景に存在する中国経済衰退の兆候と、それによって業績悪化懸念が広がるアメリカのハイテクセクターについて書きます。

「中国の現状はバブル期日本にそっくり」か?

次のグラフをご覧ください。



このグラフを作成した人の懸念は「中国経済も1989~90年に地価と株価が連動したバブルの崩壊によって日本の金融業界が衰退したように、長い金融業不振の時代を迎えるのではないか」ということです。

私は、それは大変甘い見方だと思います。もちろん、1980年代後半に不動産や株を買っていた日本国民は大変な資産破壊に見舞われました。しかし、日本人の大半は株にも不動産にも手を出さず、バブル前後で生活水準はほとんど変わりませんでした

私が懸念しているのは、大衆レベルで不動産や株を投機的に取得していた中国ではバブルの崩壊と同時に、金融業界が縮小するだけではなく国民全体の生活水準が急落するだろうということです。

日本では、経済を牽引する産業が設備投資の大きな製造業から設備投資の小さなサービス業に転換するにつれて、金融業の果たす役割も徐々に縮小していきました。

中国の場合、こうした自然な金融業の縮小を実現できずに、非金融業界の債務総額がGDPの2倍を超えるような債務ギアリングの高い状態で強引に経済成長率を高止まりさせようとして、傷口を広げるのではないかということです。

不動産開発への融資は焦げ付く可能性大

その兆候は、10月24日に「中国政府の指示によって今年第1~第3四半期(1~9月)の不動産開発事業への銀行融資は2兆6400億元(日本円にして約50兆円)に達した」という報道にも現れています。

中国全土で空き家の戸数は3000万戸に接近していると見られ、今後中国の住宅新築需要は徐々に縮小する確率が高いと言われています。


とくに要注意なのは、中国における住宅への「投資」需要です。世界中どこでも、住宅への投資需要はほとんど賃貸住宅を所有して家賃を稼ぐことが目的です。

ところが、中国では「住宅投資」とは1世帯で2~3戸の住宅を買って、評価益が急拡大した住戸を売って、実現した利益を手元に残す住宅のローンの繰り上げ返済に使うことなのです。

当然のことながら、かなり急速に評価益が膨らむような住宅市況でないと、2~3戸分の住宅ローンを並行して払っていくのは、大きな負担になります。ましてや、最近のように購入した新築住宅の価格が下がったりすると、もろに損失が出ます。

つまり、中国の住宅「投資」は、徐々に縮小していくのではなく、突然ゼロとかマイナス(2~3戸分の住宅ローンを払っていた世帯による実際に居住している住宅以外の投げ売り)となる可能性が非常に高いのです。

中長期的に見た場合、中国における住宅投資はますます展望が暗くなる要因が目白押しです。

まず、人口動態的に日本よりはるかに急速な高齢化による生産力人口の激減に見舞われます。次の2段組グラフの上段が示すとおりです。


2010年には生産力人口10億人を目前にしていたのに、2035年には8億人台半ばに縮小し、その後はこのグラフで言う低位推計に沿った急落が続くでしょう。

下段でおわかりいただけるように、中国政府による「ひとりっ子政策」の廃止は、期待していた出生数の増加どころか、やや回復に転じていた出生数をふたたび減少に転じさせてしまったのです。

「ひとりっ子政策」を廃止して出生数を増加させようという中国政府の意図には、あまり邪悪な陰謀は隠されていなかったと思います。

ですが、これまで何度も政府方針が転換するたびに痛い目に遭わされてきた中国の民衆は、政府の意向とは反対に動いたほうが安全だと考えたのでしょう。

この環境で不動産開発資金融資を拡大するのは、ほぼ確実に将来不良資産となる物件を乱造することにつながると思います。

高金利でも資金が逃げていく中国金融市場

2022年はまだ終わったわけではありませんが、世界中の国債保有者たちにとって1920年という1世紀以上も前の年に次ぐ、巨額損失の出た年になりそうです。


これまで世界中の発行済み残高で加重平均した国債利回りが前年比で30%近い下落に見舞われたのは第一次世界大戦直後の金融恐慌が勃発した1920年だけだったのですが、どうやら今年はその年に迫る大幅な利回り低下がありそうです。

もう12月に入っていて、国債利回りが急上昇する気配はないので、30%近い利回り激減はほぼ確定でしょう。債券市場がそうしたきびしい環境となっている中で、中国経済の危うさは、先進諸国の共通認識となっています。

先進諸国の国債金利が軒並み10~30年の長期債でも1~2%台に止まっている中で中国の15年債はほぼ正確に3.0%、30年債なら3.3%の利回りが稼げます。それでも、中国の金融市場からは資金がどんどん逃げているのです。


このグラフには、ちょっとややこしいところがあります。

それは国民の海外預金とか外貨準備では中国に入って来る資金がプラス、出ていく資金がマイナスで表示されているのに、貿易収支にからんだ資金は逆に入って来る資金がマイナス、出ていく資金がプラスに目盛ってあることです。

なぜこういう表記法を使うかというと、貿易黒字が出れば当然その分だけ中国に流入する資金が増えるはずなのに、そこで増えていなければどこかで流出している資金があるはずだという意味が込められているのです。

そして、2020年の第1次コロナショック以降の特徴として、貿易黒字額は大きいので当然資金流入額も大きくなるはずが、実際には中国のGDP成長率が減速するにつれて資金流出額が大きくなっているという現象があります。

貿易黒字にも徐々に縮小する兆候が……

もしこの状態で、中国経済の貿易黒字が縮小すれば、すでに始まっている中国からの資本逃避は、国民経済の基盤を揺るがす大問題となります。そして、その兆候はすでに表れています。


中国が世界貿易に占めるシェアは20世紀末からほぼ一貫して増加してきていたのですが、2015年以降は横ばいに転じています。

一方、主要な貿易相手国との貿易額で加重平均した人民元の実行実質為替レートは、2002~05年にやや低下した以外は、同じように2015年まで上昇基調を続けた後、横ばいです。

これを世界貿易に占めるシェアが伸びなくなったことへの対応策として元安政策を実施したけれどもあまり効果がなかったと見るべきではないでしょう。

実際に順調に国民経済が拡大している国の通貨が、経済全体の成長につれて強くなるのは当然の成り行きで、通貨を人為的に弱くして言わば安売りで世界貿易に占めるシェアを高めようとすること自体が、間違った政策なのです。

自国通貨を弱くして輸出を拡大しても、国民全体が他国から買えるモノやサービスの量は通貨が弱くなった分だけ確実に減少するのです。

そして中国経済の場合、世界貿易に占めるシェアが15%というのが目いっぱいの実力で、これ以上拡大しようとしても無理であり、元安で貿易量の中身は中国から送り出すものやサービスの量が増え、受け取るモノやサービスの量が減るだけのことなのです。

この事実を象徴しているのが、顧客層が国内に限定された中国電力株指数と、世界に打って出た中国のハイテク2銘柄、アリババとテンセントの株価推移でしょう。


2014~17年には電力株の2~4倍の株価水準にあったアリババ、テンセントは、現在では電力株の約4割にまで株価が下落しています。

中国経済にとって泣きっ面に蜂のロックダウン

中国経済の成長鈍化が明白になってきた中、つい最近第3期目に突入した習近平政権の異常なまでの「コヴィッド・ゼロ」政策へのこだわりがさらに閉塞感を強めています


じつは2020~21年の段階では新型コロナ対策としてのロックダウンは、ほぼ平常通りの年だった2019年と比べてあまり大きな変化がありませんでした。

しかし、致死率は低いけれども感染性の強いオミクロン株主体になってからのひんぱんで中国各地の大都市で実施されたロックダウンは、製造業の強い広州市での交通渋滞時間の激減に示されているとおり、経済活動全般の大幅な減少につながりました

また、以前からイスラム教徒が多いことで、自治区政府と住民とのあいだに緊張が絶えなかった新疆ウイグル自治区の首都、ウルムチでロックダウンのために大勢の犠牲者を出す事件が起きました。

高層住宅で起きた火災によって、外側から鍵をかけられた上にワイヤでドアノブまで縛り付けられた状態の室内に閉じこめられていた10数人とも40人とも伝えられる人が、焼け死んでしまったのです。

この事件をきっかけに、中国全土で追悼集会が催され、習近平の退陣や共産党一党独裁の廃止を求める声が公然と聞かれるようになりました。政治社会的にどんな影響が生ずるかはまだ予断を許しませんが、間違いなく経済の落ちこみをさらに深めるでしょう。

それでなくても危機的な中国の自治体財政

不動産開発業者に国有地の長期借地権を売りつけることを収益基盤としてきた中国の省、自治区、県、市などの財政は、不動産開発事業の落ちこみによって危機的な状態に置かれています。


ご覧のとおり、総債務残高が歳入を超え、債務の元利支払い額が歳入の10%を超えています。さらに、この元利支払い額のうち約6割を自治体特別債の利払いに充てています。

一方、歳入は2010年代後半の年率10%前後の伸びが、不動産開発業者への借地権販売収入の激減とともに、2021年時点ですでに0%に接近しています。中央政府による救済を必要とする自治体も出てくるでしょう。

最後の、そして非常に重要な問題が、アメリカのハイテク大手全体として、これだけアラの見えてきた中国経済に対する依存度が非常に強いことです。

中国経済への依存度が高いアメリカのハイテクセクター

中国経済の中で循環しているマネーサプライM1の伸び率が高くなると、約1年のタイムラグを置いて、アメリカのハイテクセクターの収益が向上する傾向があります。


過去2年ほど、中国のM1伸び率はプラスマイナス3~4%の範囲内で推移してきました。

経験則から言うと去年は約30%、今年も約12%伸びていたアメリカハイテクセクターのEBIT(税・金利負担控除前営業利益)は、2023年には減少に転落する可能性が高いことになります。

なぜこの経験則が通用するかというと、アメリカのハイテクセクターは中国での売上が総売り上げに占める比率が約8分の1と非常に高く、しかも中国での売上は中国のマネーサプライが大きく伸びているか、あまり伸びていないかに依存するからです。


なぜ中国ではアメリカのハイテク企業の製品の売れ行きがいいかというと、たんに人口が多く都市圏ではそこそこの所得を得ている分厚い購買層が存在しているというだけではありません。

他の先進国や新興国に比べて、さまざまな製造技術の中でも微細化技術で決定的な遅れがあり、自国内で消費するICを自国メーカーの生産量では賄いきれないという事情も加わってきます。

アメリカのハイテク企業の下請けをしている中国の製造業者の大部分が、ブランドイメージを別にすれば性能的にはそこそこの類似品を造るという能力を持っていないので、アメリカからの輸出が安定したシェアを確保しているわけです。

アメリカのハイテク企業から見れば、中国の製造業者は基幹技術でかなり劣るので、各種の工程を下請けに出す際にあまり重要な技術の流出を気にしなくてもいいという安心感もあって、下請けにも使いやすいわけです。

しかし、アップルブランドの製品のうち約7割を実際に製造している台湾のフォックスコン(鴻海精密工業)が中国の鄭州市郊外に建設した巨大iフォン工場の全面ロックダウンと、その後の労働者のストによる機能停止は、iフォン全体の生産量をかなり大きく低下させるでしょう。

製品の買い手としても製造工程の下請け・孫請けとしての重要な役割を果たしている中国経済が深刻な危機に見舞われている今、アップルやアマゾンなどのアメリカハイテク企業の業績にも暗雲が立ちこめています。

11月30日の寄り付き前の時間外取引では、前日悲観的なコメントを出したアマゾンとともに、アップルの株価もダラダラ下げを演じました。


傍若無人な言論統制をおこなっているネット系広告代理業者グーグルやフェイスブックに比べて、アップルはあまりアメリカ国内では物議をかもすような行動はとっていませんでした。

むしろ、iフォンにはネット系広告代理業者による当人に無断での個人データ収集を防ぐ機能が搭載されていることを積極的に宣伝して、言わばいい子ぶっていたのです。

そのアップルが、中国政府に指示されると、デモ参加者同士が連絡を取り合うためのアプリの機能を即刻停止してしまうなど、中国政府へのこびへつらいが目立っています

結局、製品の市場としても、下請け業者の調達先としても中国への依存度が高すぎることが、あまりにも中国政府に従順な方針を取らざるを得なくしているのでしょう。

そろそろ、中国共産党政権が倒れたらどうするのかを真剣に検討すべき時期に来ていると思うのですが。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想やご質問はコメント欄かTwitter@etsusukemasuda2 にお寄せ頂ければ幸いです。 Foomii→増田悦佐の世界情勢を読む YouTube→増田悦佐のYouTubeチャンネル

コメント

不動産鑑定士 高橋雄三 さんのコメント…
仕事上、不動産マーケットについては本気で勉強しているつもりですが、株式マーケットについては強い関心は持っていますが、株券そのものは今は持っていません。
中国の不動産マーケットについての鋭い分析にはいつも目が覚める思いで読んでいます。感謝しています。

増田悦佐 さんの投稿…
高橋雄三様:
中国関連の投稿をするたびに、大変励みになるお褒めを頂戴し、ありがとうございます。
信頼できるデータの少ない国なのでいろいろと困難はありますが、そろそろ激動期に差しかかっていることでもあり、つねにアンテナを張って見守っていきたいと考えております。