原油バレル当り180~200ドル説の根拠は? ご質問にお答えします その25

こんにちは
それまで下落基調にあった原油が、金曜日の取引で突如急騰に転じました。

ちょうど、以前いただいていたご質問にも関連しますので、今日は原油価格の見通しについて書きます。

ご質問:今日(3月4日)のツィートで原油の高値を180~200ドルと予想していらっしゃるので、かなりショックでした。

その根拠について、またブログで解説していただけたら嬉しいです。

お答え:まだロシア軍のウクライナ侵攻後2週間経っていなかった時期のご質問だったと思います。

そのときの根拠はもう、非常に単純でした。

実質ベースで史上最高値は180ドル超

これまで何度も「戦争になる」「戦争になる」と言いながら実際に狼は来なかったのですが、本当に戦争が起きてしまったからには、これは2008年の史上最高値を抜くなと思ったわけです。

2008年の夏、アメリカの大手金融機関が軒並み経営危機に陥る中で、なぜか原油価格だけが当時の価格でバレル当り147ドルと史上最高値を付けたことはご記憶かと思います。

日本ではもう、ゼロインフレから若干のデフレという環境になっていましたが、アメリカはまだ年率2%以上のインフレを維持していたころのことです。

ですから、実質価格に直すと当時の147ドルは、現在の182ドルに当たります。



そして、ロシア軍がウクライナに攻めこんだ時点で、ウクライナはNATO加盟国ではないのでEU諸国の対抗策としては経済制裁くらいしかないだろうと思っていました。

はたして、原油や天然ガスの輸入を禁止するだろうか、もしやったらロシアよりEU諸国のほうにはるかに被害が大きい「制裁」になってしまうのではないかという見通しもありました。

EUはエネルギー資源のロシア依存度が高い

まず原油ですが、EU諸国は約27%をロシアから輸入しています。


総量の4分の1を超えると、突然消えてしまったら代わりの輸入先を探すのは大変です。

また、石炭はそろそろEU諸国は全面的に使用しない方向に進んでいますが、冬の暖房や給湯用にかなり大きく依存している天然ガスにいたっては4割以上をロシアに依存していたのです。


EU諸国はこれほどエネルギー資源をロシア1国に頼っているのです。

ですから、アメリカCIAがウクライナのネオナチ勢力を使って起こした2014年のクーデター以来、延々とウクライナ政府が正規軍と国防隊と称する民兵を使って、ドンバス地方のロシア語を母語とする自国民を迫害し、殺傷していたことにもっと真剣に対応すべきでした。

ロシア側から見れば、選挙で成立した政権をクーデターで倒すのは明らかに不正です。

ドンバス地方の内戦での犠牲者数は約1万4000名と言われていますが、その大多数がほとんど武器を持たないドネツク、ルガンスク2州の民間非戦闘員です。

さらに、2014年のロシアによるクリミア併合後、当事国であるロシア、ウクライナに、ドイツ、フランスが加わって、ミンスク合意という停戦協定を締結したのですが、ウクライナ政府はこの協定を破りつづけました。

しかも、NATOに加盟していないウクライナの正規軍ばかりか、ネオナチ勢力が丸ごと1個大隊を形成している国防隊に、NATOの教官が軍事教練をしていたのです。

ロシア側が、ドイツ、フランスは完全に平和維持の努力を放棄したと見なしたのも無理はありません。

エネルギー資源を除外した経済制裁でも被害はEUに重かった

結局、自国同様、ロシアもアメリカ軍が恐いから、自国の国境沿いで起きている非人道的な行為にも、おとなしく引き下がるだろうと思っていたのでしょう。

ですが、実際にロシア軍がウクライナに侵攻してからのEU諸国の対応は、お粗末そのものでした。

とくにロシアからの天然ガス依存度の高いドイツは、すでに完成して稼働を待つばかりだったノルドストリーム2という新しいパイプラインを廃棄すると言い出しました。

それでいて、古いパイプラインからの天然ガスは買いつづけているのですから、「経済制裁」は口先だけとばればれです。

というわけで、かんじんのエネルギー資源については制裁から除外しているのですが、従来どおりの量では入ってこないというだけでEU諸国の原油や天然ガス価格は暴騰しました。

ドイツをはじめとする西欧諸国は、急遽アメリカなどから液化天然ガス(LNG)を輸入する手はずを整え始めました。

しかし、ロシアから安価なパイプライン輸送の天然ガスが入ってくることに慣れ切っている西欧諸国は、天然ガスはほぼ全量約3割価格の高いLNGでまかなってきた日本、韓国、台湾とのコスト競争にはついていけないでしょう。

そして、原油を精製して造るガソリン価格は、それ以上の勢いで上がっています。


上段をご覧ください。EU諸国のガソリン価格がブレント原油価格に比べてバレル当り何ドル割増しになっているかを図示したものです。

ロシア産のウラル原油はブレントより品質が低いので、ウラル産を混ぜることによってバレル当りの割増額を10~20ドルに抑えていたのですが、ロシア産の輸入量が減少しただけで、ガソリンに精製した場合の割増額が2倍以上に急騰しました。

その結果、下段に出ていますように今年3月のガソリン価格は、実質ベースで過去最高だった2008年6月に比べた順位でたった3%分下にいるだけの状態となっています。

このまま戦局が膠着状態になれば、当然実質ベースで史上最高になるでしょうし、ガソリンだけではなく、原油価格も品薄で値上がりはまぬかれないでしょう。

アメリカもまた石油製品の在庫が払底気味

ロシアにエネルギー資源を全面的に依存していたEU諸国はともかく、自国が世界有数のエネルギー資源大国であるアメリカは、それほど影響を受けなかったとお考えかもしれません。

ですが、アメリカでも原油から精製するガソリンやディーゼル油の在庫が極端に減少しています。


アメリカの場合、2020~21年はロックダウンなどで人の移動が少なかったのですが、その2年間と比べても、今年1~3月の在庫は非常に低くなっていて、もし順調に人の移動が平常通りに戻っていけばほぼ確実にガソリンやディーゼル油が深刻な品不足となるでしょう。

異常値だった2020~21年をのぞいた2015~19年との比較で2021~22年の実績を見ると、次のとおりです。


ここでもまた、かなり新型コロナの影響が大きかった2021年より、今年の1~3月のほうがはるかに在庫が減少しています。

年間を通じてみれば、2021年はコロナ前の5年間の平均値とほぼ同水準の在庫を持っていたわけですが、2022年になって在庫が激減しています。

もちろん、アメリカは化石燃料全体をほぼ自給できる国ですから、どこかからの輸入が途絶えたとか、減少したというわけではありません。

それなのに、次のグラフでおわかりいただけるように、原油の在庫が精製品の在庫より大きく減少しているのです。


アメリカ国内では、ガソリン価格の暴騰が話題になっていますが、精製品全体の在庫はコロナ前の5年間の平均に対して6%強減少しただけです。

一方、原油価格はまだ本格的に上がっていませんが、在庫はもう11%以上少なくなっています

当然、これから原油価格もガソリンを追って急上昇するでしょうが、アメリカの場合なぜ在庫がここまで減少したのでしょうか?

「緑の革命」を真に受けた罰

最大の理由は、「地球温暖化=二酸化炭素元凶」説を真に受けて、化石燃料の利用を本気で減らしにかかってしまったことだと思います。

世界中どこでも似たようなものでしょうが、アメリカでも銀行が融資をする際の与信基準は各行横並びになりがちです。

そして、間の悪いことにアメリカの大手銀行は2019~20年ごろいっせいに「化石燃料採掘業者の長期投資はunbankable(担保価値がない)」と見なすように与信基準を変更しました。

その結果、世界に名だたるオイルメジャーの案件でさえ、新規の油田・ガス田を発見するための探査や試掘のための先行投資ばかりか、既存のしかも豊富に埋蔵量を残している油田・ガス田の老朽化したリグ(掘削機)の更新のための融資さえ断るようになっていたのです。

その結果、すぐにではありませんが、徐々にアメリカの原油や天然ガスの生産量が減少に転じました。

オイルメジャーのほうも、どうせ再生可能エネルギーだけで現代社会のエネルギー需要を満たすことはできず、需要は化石燃料に戻ってくることを確信しています。

ですから、自己資金だけで設備を拡張するような冒険はせず、生産減による値上がりで高収益を保ちながら、需要が回帰してくるのを待っているわけです。

結局のところ、貧乏くじを引くのは少量を高値で買わされることになる消費者で、とくにアメリカの場合ガソリンやディーゼル油は生活必需品ですから深刻です。

こうして世界中で持て余している投資用待機資金を「再生可能エネルギーによる完全電化生活のためのインフラ投資」に大盤振る舞いし、やっぱり不可能と分かった時点でまた化石燃料中心に戻るために巨額資金を遣い、といったムダな投資に莫大な資金が注ぎこまれてしまうのかと諦めに近い心境で見ていました。

ところが、ここにきてアメリカの大衆が本気で暴動を起こすかもしれない事態がかなり実現しそうな気配が漂ってきました。

3月25日原油価格高騰の世界史的意義

ウクライナ戦争勃発直後のショック高のあと、停滞気味だった原油価格が急騰に転じたのです。



午前8時半ごろまで下落していたWTI原油先物価格が急騰に転じた背景には、南イエメンフーシ派による、サウジアラビア国営石油会社アラムコのジェッダ製油施設ドローン爆撃という大ニュースがありました。


南イエメンのフーシ派政権は、アメリカの軍事的支援を受けたサウジアラビア・UAE連合軍による空爆によって2015年以降10万人を超える死傷者を出し、食料や物資の補給もままならない人道上の危機と呼ばれる状態が続いていました

しかし、2019年に安価な手製のドローンによるアラムコ製油施設の爆破に成功してから、徐々に形勢を逆転しはじめていたのです。すでにUAEはほぼ戦線を離脱したと見られています。

この攻撃がジェッダでF1開催を週末に控えた金曜日に遂行されたことから、フーシ派はいちばん宣伝効果の高い時期を選んで攻勢を仕掛けることができるほど主導権を握りつつあるとわかります。

そして、サウジアラビアは「アメリカなどの支援なしには原油の供給責任を果たせなくなる」と主張しているのです。

もちろん、軍事・経済両面にわたる支援の増額を求めての発言でしょうが、実際にサウジアラビアからの供給量が一時的に激減する可能性も出てきたのは間違いのない事実です。

エネルギー危機は日本の好機

ロシア産の原油・天然ガスの流通量が減り、アメリカでゆるやかな減産が続き、サウジアラビアからの供給も不安定になれば、原油価格は一時的にではなく、持続的に高騰することも考えられます

「エネルギー資源をほとんど持たない日本には不利な環境になる」とお考えの方が多いと思います。

ですが、第一次、第二次合わせて10倍以上に原油価格が跳ね上がったオイルショック時に、いちばん被害を小さく食い止めた工業国は日本でした。

第二次世界大戦後は「エネルギーは高いコストをかけて輸入しなければならないもの」と覚悟を決めて、省エネルギー技術を磨き上げてきたからです。

そして現代経済は当時よりはるかに製造業の比重が低く、サービス業の比重が高くなっています。

今回もまた、エネルギー資源価格が高騰したとき、いちばんうまく乗り切るのは、エネルギー資源を大量に持っている国ではなく、限られたエネルギー資源を有効に使える国だと証明してくれると確信しています

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
ウクライナと言う国を知れば知るほど、弱い者いじめの好きな国だと思えて仕方がありません。

一説には、北朝鮮のICBMの基幹エンジンにウクライナの技術もしくは、製品の関与が疑われるそうです。
我が国は、親ウクライナと言う人が多い様ですが、自国の安全保障上の由々しき問題を想起させる国が果たして友好国といえるか、改めて考えたいものです。

サウジアラビアに関しては、軍費を湯水の様に使ってさえ近隣諸国の内戦?を納められないのは、基本的な国の在り方に懐疑的な部分が生じていると思われて仕方がありません。

いくら金銭を積んでも、使える金に限りがあるのを目の当たりする日が近いかも知れません。

栴檀の葉

増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
まず北朝鮮のICBMへの技術供与の話ですが、ウクライナからとの説は大いにありうることと思います。
私もこの話を初めて知ったときには驚愕したのですが、現在アメリカの軍需産業各社には、宇宙開発や大陸間弾道ミサイルのための信頼すべき技術を持ったロケットエンジン製造業者が存在せず、ボーイングとロッキード・マーチンのJVでやっているアトラスVのローンチにはロシア製のロケットエンジンを使っているのだそうです。
そして、このロシア製ロケットエンジンの基礎研究がされていた頃、ウクライナはまだソ連邦内の自治共和国であり、ロシアと完全に共同でロケットエンジンを開発していました。
もっと恐ろしいことに、ロシアからロケットエンジンの供用を受けられなくなった米軍にとって頼りとすべきロケットエンジン開発業者は、ともにできもしないことを吹聴する法螺吹きぶりで悪名高い、イーロン・マスクのスペースXか、ジェフ・ベゾスのブルー・オリジンだけだというのです。
また、ウクライナの現政権に「ロシア人は汚れたアジア人の血が混じった劣等人種だ。純血白人であるウクライナ人こそ、すべてのスラブ民族の頂点に立つ人種だ」と公言しているネオナチ政党が荷担していることは間違いありません。
匿名 さんのコメント…
増田先生、コメントありがとうございます。

米国の民間ロケット会社は、ロシアのロケットエンジンが廉価で手に入るので使っていると聞いた事があります。

先生のお話しからすると、新型のロケットエンジンを作れるのは、EUと日本だけと言う事になります。

米国は金城湯池の、武器産業を手放すつもりでしょうか。


栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
手放すつもりはなかったのでしょうが、造作もなくコスト削減ができるので、ついつい海外低賃金国に下請けに出しているうちに、気がついてみたら自国内に製造工程を任せられる現場技術者がいなくなっていたということなのだと思います。