死の町と化した古都西安(長安)と見せしめ刑の伝統
こんにちは
ゼロコヴィッド政策の破
これまでのところ、南アフリカ共和国などのオミクロン株感染がクラスター化した諸国でも感染者の致死率はほぼ確実に0.1%以下ですから、感染者は多数にのぼっても犠牲者や重篤症状の発生を抑えこむことができれば、慌てふためく必要はない状態だと言えるでしょう。
数多くの悲劇を生んだ西安の全市民自宅拘禁政策
上のタイトルも下のキャプションも、オーストラリアでキリスト教的な視点からニュースを論評すると称している『デイリー・デクラレーション』というサイトが、この写真を使った2020年9月の投稿で付けたものです。
陝西省の古都西安が大変なことになっているので、今日はそのことについて書きます。
※1/9 PM7時 一部訂正しました。
※ショッキングな写真が含まれます。
西安の旧称は長安といって、前漢、隋、唐代の首都であり、中国文明が最高度の輝きを見せた盛唐期には間違いなく世界最大でもっとも豊かな都でした。
現在の西安も、人口1300万人の中国有数の大都市です。
ゼロコヴィッド政策の破
綻を示す西安市内の惨状
少なくとも公式発表ベースではデルタ株までのコヴィッド-19感染者数を極度に少数に抑えてきた中国で、昨年末から感染者数が激増しています。
おそらく感染者の大半は比較的軽症で、入院、集中治療室行き、重態、死亡といったケースは稀なオミクロン株は非常に伝染性が強いためだと思います。
また、激増していると言っても、人口が約14億人もいる中国での感染率は相変わらず欧米諸国と比べればかなり低水準にとどまっています。
下の地図グラフが、去年12月29日現在の省・自治区別の感染者数を示しています。
1月第1週を終えた段階では、このグラフよりはかなり増えているでしょう。しかし、去年末の段階では感染者数が1000人を超えていたのは古都西安と革命の聖地延安を擁する陝西省だけで、100名を超えていたのも浙江省と広西チワン族自治区だけでした。
しかし、ふたつの理由から、この比率的にはごくわずかな感染者数の拡大が中国政府にとってはかなり深刻な政治問題と化しています。
ひとつはまったく非現実的なコヴィッド感染者ゼロ政策を掲げて、少なくとも表面的にはその政策を実行できていたことを自慢して、なかなか感染者数を抑えこめない欧米諸国に対する自国の優位を主張しつづけてきたことです。
しょせん完璧に実行することは不可能な政策を掲げて国民の自由をそうとう束縛してきたわけですから、今さら「あれは実行不可能な政策でした」と言って方針転換しても、批判にさらされるでしょう。
もうひとつは、不運とも言える事態なのですが、もう約1ヵ月後に迫っている北京冬季オリンピックを無事開催するためには、感染者数の拡大が諸外国の選手団派遣に影響を及ぼすことを避けたいという思惑です。
中国政府は、たとえば日本政府がしたように1年延期してなんとか開催に漕ぎつけるといった対外交渉はむずかしいとはじめから知っていて、何がなんでも期日どおりに開催するという強行突破策に出ました。
これはもう、日本と中国の公衆衛生に関する倫理観などを比べればいたし方のない話なのですが、政権当事者としては中国に対するいわれのない差別と言いたいでしょうし、今のところ隠れた党内反対派は現指導部を揺さぶる材料にしたがるでしょう。
その結果、とにかく北京周辺にまでクラスター感染が広がらないように、感染者数が1000人を超えた西安市内で異常な厳戒態勢を敷いたわけです。
数多くの悲劇を生んだ西安の全市民自宅拘禁政策
下の写真は、西安市民全員を自宅拘禁状態にするという決定が公表される前日に当たる12月22日の西安市内です。
翌23日には市民全員の自宅拘禁が発表され、その日から日用必需品を市職員が各家庭に配布するという異常事態になりました。
当然のことながら、家族構成などに応じて必要なものは違いますし、入れ忘れや届け忘れもあって、市当局には苦情が殺到しています。
もっと深刻なことがあります。
自宅拘禁下でも例外的に許されている病院への外出も、なかなか各建物の守衛などとの交渉で長引いたり、自動車の利用は禁じられているために徒歩で病院までたどり着くのに時間がかかったりして、助かるはずの命が失われる悲劇が続出していることです。
8ヵ月目の妊婦が、流産の危険があるので産婦人科に入院しようとしたけれども、コヴィッド陰性の証明がたった数時間有効期限を切れていたため、いくつかの病院で入院を拒否され、流産してしまったと報道されています。
また、39歳の男性が心臓発作を起こして、病院を訪ね回ったけれどもワクチン証明がないので3つの病院で門前払いされ、4つ目でやっと診察してもらえたときにはすでに絶命していたという痛ましい事件もありました。
西安市内では「ここではあらゆる病気やけがで死ぬことができるけれども、コヴィッドで死ぬことだけはできないようになっている」という哀しすぎるブラックジョークがささやかれているそうです。
国境の町、靖西市で起きた見せしめ刑の復活
広西チワン族自治区はベトナムと国境を接していますが、その中でも日常的にベトナムとの人の出入りがある靖西市では、国境を完全に封鎖していっさい出入国を認めないという強硬策をとっています。
その靖西市で、ベトナム人の密入国を助けたという容疑で逮捕された4人の中国人が、頭から足先まですっぽり防護服で包まれた上から、首に自分の顔写真と実名が貼り付けられたプラカードを掛けて市内を引き回されるという見せしめ刑を受けました。
しかし、「コロナ蔓延を防ぐための国境封鎖」という大義名分に逆らう行為になると、こんな野蛮で残酷なことが平然とまかり通るのです。
しかも、この見せしめ刑や大群衆の前での吊し上げといった「刑罰」は、鄧小平の指揮下で中国が急速に経済発展を遂げた改革・開放路線のモデルケースと言われる広東省深圳のような「先進的」な土地でも起きていたのです。
中国型「高度経済成長」のモデルケース深圳の悲惨な現実
深圳では、2000~02年のハイテク・バブル崩壊後、急激に存在感を増した中国経済の中でも、香港に隣接するという立地の良さからとくに発展ぶりが華々しかった都市です。
その深圳に香港から商談に来た富裕層や地元深圳、そして同じ広東省内の大都市広州の成り金目当てに、一大歓楽街が誕生しました。
下の写真は、2006年に売春婦と買春客を一斉検束したときに、地元の警察がおこなった見せしめ刑の様子です。
それ以上にやりきれないのは、深圳のように中国内では経済的発展の機会に恵まれた都市でも、この見せしめ刑を見ようと黒山の人だかりができていることです。集まった人たちはこんな光景を見ていて楽しいのだろうかと憂鬱になります。
もちろん、中国で見せしめ刑がもっともひんぱんにおこなわれていたのは、党中央委員会内で孤立しはじめていた毛沢東が、いちかばちかの賭けに出て中学生・高校生を中心にあらゆる権威への反逆を煽って始めた文化大革命・紅衛兵運動のころでした。
なぜ文化大革命の悲惨な見せしめ刑が折に触れて再現されてしまうのか
しかし、次第にあまり分別もない若い人たちがとにかくあらゆる分野での権威と見られる人たちを怒りにまかせてリンチにしているだけだと感じるようになったと述懐しています。
それからはいつか中国にも言論・表現の自由が実現したときに、この「革命」がいかに悲惨なものだったかを伝えられるように、命がけで自分の写した写真を隠してきました。
晩年はニューヨークに移住していたのですが、彼のおかげで我々も文化大革命の暗黒面を見ることができるわけです。
オーストラリア国民は
文化大革命当時の中国を笑えるのか?
下の写真もまた、李振盛が命がけで守りとおしたことによって世に知られるようになった1枚です。
上のタイトルも下のキャプションも、オーストラリアでキリスト教的な視点からニュースを論評すると称している『デイリー・デクラレーション』というサイトが、この写真を使った2020年9月の投稿で付けたものです。
当時はまだ、オーストラリアにはコヴィッド-19の感染者はほとんどおらず、この投稿の本文でも新型コロナ騒動はほとんど話題にしていませんでした。
それより、「左翼に甘い民主党リベラル派が黒人の命も大切だ(Black Lives Matter、BLM)などの活動家をのさばらせておくから、アメリカは徐々にマルクス主義者に乗っ取られつつある。信心深いアメリカ国民よ、手遅れにならないうちに目覚めよ」といった論陣を張っていたのです。
しかし、オーストラリアにもコヴィッド-19感染者がちらほら出始めたときの政府の反応はどうだったでしょうか?
さすがに今までのところ、ワクチン接種拒否者に首からプラカードをかけさせて市中引き回しの刑にするというところまでは行っていません。
ですが、とくに先住民が多くて貧困で居住環境も劣悪な北部準州では、ワクチン拒否者を強制収容所送りにしたり、やはりワクチン拒否者には病院に行く以外の外出は通勤も運動もダメという極端な抑圧政策を平然と実行しています。
「信仰の自由」とは何を信仰してもいいし、まったく信仰を持たなくてもいいという当たり前のことが大衆レベルで浸透している日本国民にはわかりにくいことですが、旧大英帝国植民地の多くでは、いまだに国民の圧倒的多数がキリスト教信者です。
そして、一国内で多数派を形成したキリスト教徒たちは唯一絶対、永遠不変の真理が存在し、この真理に異を唱える人間は異端、邪教の信者だという観念に凝り固まりがちです。
その意味では、科学的社会主義を自称するマルクス・レーニン・スターリン・毛沢東主義を信奉する人たちと非常によく似たところがあるのです。
我々日本人としては、こうした偏狭な信念に凝り固まることだけは避けたいものです。
ご投稿いただいたコメントでのご指摘によって、大いにことば足らずの部分があったことを反省し、投稿日の午後7時ごろ太線の赤字部分を書き加えました。
また、西安市と延安市を擁する陝西省を一貫して山西省と誤記していたことも別の読者の方からご指摘いただき、地図や写真のキャプションをふくめ、同日午後7時半ごろ差し替えさせていただきました。こちらも訂正箇所を赤字にしてあります。
皆様からいただくコメントのおかげで、当ブログをより信頼性のある情報源とすることができます。ほんとうにありがとうございます。 増田悦佐
読んで頂きありがとうございました🐱
ご意見、ご感想お待ちしてます。
コメント
西安では、歴史上何度も虐殺が行われたものですが、逃げる事もならない虐殺一歩手前の事が、現実に起きているとすれば、形は違えども、古代帝国に回帰しているのかも知れません。
北京オリンピック選手団も無事に戻れるか確信が持てない状況に陥りかねず、PKFの庇護の下でしか開催は困難かとも思われます。
もちろん、中華人民共和国は、PKFは受入難いでしょうが。
栴檀の葉
>我々日本人としては、こうした偏狭な信念に凝り固まることだけは避けたいものです。
日本のキリスト教徒は、自然性から大衆的なので偏狭ではありません。なので、異端·邪教の信者でもありません。
コメントありがとうございます。
たしかに前漢のころにも、そして唐代にも虐殺や内乱で多数の犠牲者を出した都市でもあります。
反面、おそらく当時としては世界的に見ても珍しいほど異民族や外国人を政府高官に取り立てたり、あらゆる国々からの文化を許容した華やかな都でもあったと思います。
現代中国の西安は、排他的で閉鎖的になってしまっているので、暮らしている人たちはほんとうに気の毒です。
最近、目前に迫った北京冬季五輪のニュースを聞かないのは、水面下でかなり真剣な折衝が続いているのでしょう。
なんとか無事に開催されたとしても、帰りが大変な状況になってしまうかもしれませんね。
コメントありがとうございます。
日本のキリスト教徒の方々には、偏狭な信念に凝り固まった人たちはめったにいらっしゃらないでしょう。
むしろ、日本で警戒すべきは教条主義的な左翼に人たちとか、人種によって人間の品性に等級があると信じこんでいる人たちかもしれません。
そのへんについて、ことばが足りなかったことはお詫びします。
また、私はありとあらゆる宗教について、異端だとか邪教だとか思ったことはいっさいありません。
ほかの人たちに危害を加えたり、他の宗教・宗派を迫害しないかぎり、あらゆる宗教のあらゆる宗派に布教の機会は平等に与えられるべきだと思っております。
増田様の思想を明らかにして下さり感謝します。
こちらこそ、ことば足らずの文章をきちんと補足する機会をいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
たしかに、いわゆる情報化社会は、今まで以上に大衆操作が横行する方向に突き進んでいます。
さらに、グーグル、フェイスブック(メタ)、本業よりクラウド事業の通じてのアマゾンといったネット通信関連の寡占企業がまさにカネの力で自分たちのつごうのいいほうに世論を誘導し、経営難で息も絶え絶えの新聞、テレビ放送網が無抵抗でそれに付き従うという構図はやりきれません。
従来、比較的良識的とされていた欧米政府が、いっせいに「コロナ専制」とも言うべきロックダウンやワクチン接種の強制で馬脚を現しています。
それに比べて、とにかく首相官邸の公式サイトで「ワクチンを推奨するが無理強いはしない」、また「ワクチン未接種者を差別してはいけない」と明言しているだけで、今や絶滅危惧種化している欧米の良心的保守派に日本政府が絶賛される世の中になろうとは、たった2年前には想像もできなかった事態ですね。