世界を救うどころか足もとが崩壊しはじめた中国経済

こんにちは
今日は、中国政府要人たちの政治・外交・軍事などに関する発言が、いったいなぜ強硬一点張りになっているのかを解明します。

史上空前の借金漬けで
身動きが取れない民間部門

世界中どこでもおなじことですが、民意にもとづかない政権が深刻な危機に遭遇すると、自国がいかに強くて立派な国かを強調するとともに、排外意識をあおり立てるキャンペーンを推進します。

ほんとうに強くて立派な国なら、外交的に孤立するはずもないし、ましてや他国からの侵略の脅威にさらされるなどということがあるはずがないのですが。

それでも、とにかく自国内ですでに勃発している危機から国民の眼をそらすために、必死になって「諸外国からの侵略を防ぎ独立を維持するために、国民は一致団結しなければならない」と主張するのです。

さて、現在の中国政府が直面している最大の国内問題とは何でしょうか?

この点についてはもう、疑問の余地はありません。

民間部門、つまり企業や家計の借金が、とうてい返せるはずがないほど膨れあがっていることです。


これが、先進国から、新興国、発展途上国、資源国までふくめた14ヵ国の民間総債務の21世紀に入ってからの推移です。

ふたつ、ご注意いただきたいことがあります。

1. 最大の注意事項は、債務問題と言うと政府が主として自国民に対して負っているいわゆる国家債務のことばかり取り上げる論調が目立ちますが、それは間違いだということです。

2.この民間債務総額からは、民間企業の中でも金融機関の債務は除外して、金融業界以外の企業と家計の債務だけを集計しているということです。

なぜ、このふたつの注意事項が重要なのかをご説明しましょう。

まず、1国の政府が自国民に対して背負う債務は、国民経済の健全性にはほとんど影響がありません

もちろん、政府が国民に対してあまりにも大きな債務を抱えてしまったら、元利をきちんと返済できなくなるかもしれません。

でも、この借金を踏み倒すことになっても、増税などで埋め合わせることになっても、国内での資金のやり取りで済む限り、国民全体にとってマイナスではないのです。

まず、「こんなだらしのない政府は債務不履行をさせて潰して、ご破算で新しい政府を造ってやり直そう」ということになったとします。

もちろん、国債などを持っていて踏み倒された個人や企業は、損をします。反面、この国家債務を使って推進していた事業で潤っていた産業、地域、官僚、政治家などは踏み倒し得で、国民全体としてはチャラです

もし、「それでは国債保有者に迷惑がかかるから、増税などによって返済資金を捻出しよう」ということになったら、国民全体に重税負担が降りかかりますが、国債で推進していた事業の恩恵を受ける人たちも、国債保有者もその分は得をしたというわけです

ただ、国の債務不履行を避けるために海外資金を導入しようということになったら、その後長いこと金利や配当を海外に支払ったり、場合によっては大事な事業の所有権が海外資本に移ったりしますから、これは国民全体にマイナスです。

2番目に、企業債務から金融機関の債務を除外するのは、金融機関はだいたいにおいて、借りたカネはほぼ全額融資や投資などの運用に回しているので、バランスシートの左右を合わせて考えると、ほぼゼロになっているからです。

金融機関をのぞく民間部門の債務は、個人世帯が所得を稼ぎ、企業が利益を生み出して返す必要のある借金ですから、これが膨張することは深刻な事態を招きます。

中国民間部門の債務増加は
前代未聞、破綻必至のペース

こうして考えていくと、21世紀に入ってからの中国民間部門が丸20年間で債務を29倍に増やしてしまったというのは、形容することばに困るほどのとんでもない借金バブルです。

20年間、毎年18.3%ずつ借金が増えていったのです。

中国政府の公式統計では、名目GDP成長率はあちこちで上げ底をしたり、混ぜものを詰めたりして、2000年の9兆9800億人民元から、2020年の102兆5900億元まで10.3倍になっています。

公式発表ベースでさえ、名目GDP成長率は民間債務増加率、29倍の半分にさえ達していないのです。

近代産業革命が起きてからの各国名目GDPの推移をみますと、20年にわたって10%台の半ばが続いたケースは皆無です。

10年以上続いたケースは、1950~60年代の日本と1990年代から2000年代初めの中国がありますが、とうてい20年間続けて年率平均で18.3%というような高水準の伸びをしたことはありません。

このグラフで言えば、中国は言わずもがなですが、20年間に民間総債務が10倍を超えてしまったトルコやインドも、いずれ国家破綻はまぬかれないでしょう。

5倍から10倍までの範囲には、中国の資源浪費型高成長の「恩恵」を被っていたサウジアラビア、インドネシア、オーストラリアなどの資源国や、中国が資源を輸入するために物流・金融両面で中継基地の役割を果たしていたシンガポールがふくまれています。

これら諸国も、かなり危ないでしょう。年率8.5%を超える名目GDP成長率を20年間維持するのは、正直な産業部門だけではかなり高いハードルですから。

大きな借金をせずに地道に仕事をしていればという重要な前提条件を守れれば、たしかに「稼ぐに追いつく貧乏なし」ということわざは通用します。

でも、借金に慣れてしまって、元利返済に支障をきたすたびに前の借金の返済のために新しくもっと大きな借金をするようになったら「借金に追いつく稼ぎなし」になってしまうのです。

中国が陥った「借金に追い
つく稼ぎなし」状態の苦悩

たとえ、最初は稼ぎに比べて微々たる借金だったとしても、元利返済のために新しいカネを借りる習慣ができてしまうと、債務総額はあっという間に稼ぎを超えてしまいます。

そのへんの事情を鮮明に示しているのが次の4枚組グラフです。


中国は、国民経済に占める債務の大きさを公式統計で発表するようになった2006年の時点ですでに家計+非金融企業部門でGDPの約120%の債務を抱えていました

それが、2017年には200%超になっています。毎年の稼ぎを全額借金返済に回して、全国民が飲まず食わず、企業は設備投資も研究開発投資もなしという状態を2年続けても、返しきれない借金です。

これはもう、破綻への道をまっしぐらというほかないでしょう。

このグラフにはもうひとつ、注目すべき点があります。それは上段家計部門の7ヵ国・1地域でも、下段非金融企業部門の8ヵ国1地域でも、21世紀に入ってから民間部門の債務をはっきり減少させていたのは日本だけだという事実です。

「失われた20年」とか「失われた30年」とか言って、日本経済は低迷しつづけていることを強調したがる経済学者や評論家が多いです。

でも、日本が1970~80年代に経験したような地価・株価バブルによって急激な債務の膨張をやってしまったあとで、大戦争後のインフレでツケを国民に回すというような姑息な手段を使わずに債務を地道に圧縮してきたのは、おそらく日本だけだという事実を忘れてはいけないでしょう。

不動産資産頼りの中国家計に
のしかかる住宅ローン負担

なお、中国家計部門の債務総額は、やっとGDPの50%程度になっただけですから、先進諸国に比べると一見大きな負担ではなさそうに見えます。

これは幻想です。じつはGDPに占める労働分配率(勤労所得の企業利益に対する比率)が先進諸国より低く51~52%にとどまる中国の家計にとって、GDPの約半額に相当する債務を背負っているのはかなり大きな負担です。

しかも、中国個人世帯の資産形成はほぼ全面的に居住用不動産を取得して、その値上がり益に頼っていますので、構造的に所得水準に比べれば多額の住宅ローンを組まざるを得ないという背景があります。


ふつうに勤労所得を貯蓄や金融資産投資に回していたのではとても資産形成が進まないからこそ、かなり多額のローンを組んででも居住用不動産取得を急がなければやっていけないという事情があるのです。

中国の株価低迷は習近平政権による
ハイテク企業つぶしが原因ではない

稼いでも、稼いでも借金は稼ぎを上回るペースで膨らんでいくという状態が、少なくとも20年にわたって続いていたのです。

こんな中で中国を代表する株価指標が天井を打ち、低迷を続けるのは当然ではないでしょうか?


まずご覧いただいたのは、アメリカの株式市場に上場している中国株で構成された上場投資信託(ETF)、ナスダック・ゴールデン・ドラゴン・チャイナの2014年以来の値動きです。

去年末のバイデン大統領誕生をはやして、今年の1~2月には1500ドルから2100ドル近くへの大暴騰を演じました。

ですが、民主党政権がとくに親中国だというわけでもなく、またアメリカ政権のスタンスが親中なら中国企業の業績が画期的に向上するわけでもありません。

それがわかって天井を打った2月後半以降は、小刻みな反騰を挟んで大幅な下落を続け、結局ピーク比で60%近い下落となっています。

中国本土に比べれば、今のところ正直に経済環境を反映する香港市場での中国株の値動きはどうでしょうか。

まず、香港地場産業の株も多少ふくまれていますが、主力は中国各業界を代表する大手企業で構成されたハンセン株価指数から見ていきましょう。


こちらは、2018年1月にすでに史上最高値を付けたあと、基本的にはサイクルのたびに上値も下値も切り下げる典型的なベア相場が3年にわたって続いています。

ここでもバイデン政権誕生前後の去年の秋から今年1~2月にはやや上昇機運が見られましたが、すぐあだ花であることが市場に認識されています。

先週金曜日の終値は、史上最高値からほぼ正確に30%安でした。

その中で、アリババやテンセント、バイドゥなどの「ハイテク」銘柄中心のハンセン・テクノロジー株価指数の場合、史上最高値を付けたのは今年2月半ばでしたが、その後の反動はハンセン株価指数以上に強烈でした。


たった10ヵ月で46%の大暴落です。

もちろん、アリババ、テンセント、メイトゥアン・ティアンピンといったハイテク企業が次々に習近平政権の狙い撃ちで経営環境が悪化しているのも事実です。

ですが、その背景にはこうした一握りのハイテク企業以外では、これ以上借金を膨らませながら利益成長を目指すには金利・配当負担が重くなりすぎているという事実があります。

実体経済がどんどんやせ
細っていく現代中国経済

でも、もっと大きな問題は、増えつづける債務をきちんと返済しつづけるにはとうてい追いつかないほどGDP成長が鈍化していることです。

まず、世界の工場と呼ばれる中国の鉱工業生産高の推移からご覧ください。


じつは、中国政府が「保八(実質GDP成長率8%台死守)」を呼号していたころから、すでに中国経済の主力エンジン、鉱工業生産高は前年同月比7%台すら維持できなくなっていました

なお、このグラフでは中国の場合2019年末から2020年初頭に起きた新型コロナウイルスによる経済活動激減の一過性の影響を除去するために前年比ではなく、前々年比の成長率を見ています。

今年の11月にも、政府公式発表の製造業購買担当者景況感指数は、お約束のように現状維持を意味する50を回復したことになっていますが、鉱工業生産高成長率の鈍化は明白です。

そして、アメリカのハイテク企業が軒並み、企画設計と販売に特化して、面倒な生産現場は労賃の安い中国などの新興国に移管してしまったため、中国鉱工業生産の回復力が損なわれると、世界経済もまた低迷したままという状態になっているのです。

とくに憂慮すべきなのは、これまで輸出と並んで中国GDPの2大成長分野だった実物資産への投資、固定資産投資がコロナ後は年率5%成長すら達成できずに低迷を続けていることです。


この原因は、グラフ中では黒の点線で示した民間企業による固定資産投資の成長率が5%台を割りこんだ2017年半ばから2018年半ばに、政府が国有企業に大号令をかけて固定資産投資を急増させて、なんとか全体で8~9%台の成長を維持しているように見せかけたことです。

中国の国有企業は石油・石油化学3社と国有5大銀行をのぞけば、図体ばかりでかくて生産効率がすさまじく悪いカネ食い虫ばかりです。

その国有企業が設備投資をするために膨らます借金の企業総債務に占めるシェアが、次の3枚組グラフでおわかりいただけるように慢性的に高止まりしているのです。


こんなにバカなことをやっていれば、中国の経済成長率はますます鈍化するのですが、そもそも中国共産党が一党独裁体制を維持していけるのは、国有企業を通じてさまざまな既得権益団体に利権を分配しているからこそなのです。

ですから、危機が深刻化すればするほど、中国政府は経済成長率を高める民間企業の投資にカネを回さずに、いずれは莫大な特別損失の尻拭いをしてやらなければならない国有企業への資金分配率を高めるのです。

このへんの事情については、「国有企業なら救われるが、民間企業は民間企業は見殺しにされる中国経済の実態」に書いておきましたので、ぜひお読みください。

消費は輸出と投資に代わる中
国経済の救世主にはなれない

新興国の中でもかなり長期にわたって高成長が続いた中国経済では、そろそろ個人世帯消費が輸出と投資という2本柱に代わって、経済成長の牽引役になってもよさそうな気がします。

ところが、これもまた期待はずれに終わるでしょう。


ご覧のとおり、国際金融危機が勃発した2007年から4~5年のあいだはすばらしい勢いで伸びていた中国の小売売上高は、まさに竜頭蛇尾でした。

とくに、中国政府が強引に国有企業の設備投資を増やさせて帳面尻だけの高成長を維持した2017~18年以後は、急坂を転げ落ちるように成長率が鈍化しています。

ふつうの国では、国民がその年のうちの消費を我慢して貯蓄に回していた資金を企業が投資に使えば、その後の生産性の向上で国民は翌年以降の成長率向上と貯蓄の合計でもっと豊かになれるはずです。

ところが、中国では国内貯蓄の圧倒的部分が、まったく生産性を向上させずに既得権益団体にばら撒かれる利権に消えてしまうので、そうならないのです。


投資資金さえ潤沢ならそこそこに成長することのできる民間企業は、国内貯蓄の大部分が国有企業に行ってしまうため、成長の原資を国際金融市場、中でも少しでも高い金利・配当収入を求めて国境を越えて徘徊しているドル資金であるユーロダラーに頼らざるを得ません

だから、中国では本来であれば勤労所得と家計貯蓄に連動して好不調が決まるはずの小売売上高さえもが、ユーロダラーの供給が潤沢なら伸び、ユーロダラーに目詰まりが生ずると伸び悩むというサイクルになってしまうのです。

ユーロ圏諸国が軒並み成長率の鈍化とコロナ危機に対する過剰反応で経済危機を迎えつつある現在、中国経済の展望はますます暗くなっていると言えるでしょう。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
角を矯めて牛を殺すを地で行く中華人民共和国企業のドル債のデフォルトは、ユーロドル金利の上昇が進み一層金回りがきつくなる循環で、今後が楽しみです。

また、金の卵を産む鶏(民間企業・輸出企業)を、腹の中の卵目当てに殺すとは、短慮と言うべきか、共産党の骨がらみと言うべきか、それでも目先の僅かな金の卵が欲しそうです。

栴檀の葉


増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
これはもう断末魔と言うべき状態なのですが、反中国の人たちも、親中国の人たちも、この国がいかに貧弱な見掛け倒しの体質かをまったく理解せずに議論をしていると思います。