ウェブマガジン『増田悦佐の世界情勢を読む』創刊準備号を出しました

こんにちは
今日も午前中に投稿する予定がだいぶずれ込んでしまい、申し訳ありません。

今日は、来年の1月初旬より(株)フーミー様から月2回の刊行を予定しているウェブマガジン、『増田悦佐の世界情勢を読む』の創刊準備号についてご紹介します

創刊準備号では『「超宇宙」での君臨を夢見るフェイスブック改めメタの野望』と題して、これまでほとんど独力で世界中の株式市場を牽引してきたアメリカのハイテク銘柄が抱える問題点を取り上げました。

準備号はどなたでも無料でお読みいただくことができます。ぜひ上のリンク先からお読みいただき、内容がお気に召しましたら定期購読をお願いしたく存じます。

それでは、創刊準備号の一部をここに掲載させていただきます。

フェイスブックのメタへの
改名は何を意味するのか

202110月末、アメリカ6大ハイテク企業FAMANGの一角を形成するフェイスブックが121日付で社名をメタに変更すると発表しました。

なお、FAMANGとは、以下の6社の頭文字を集めた造語です。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の最大手であるフェイスブック(F)、スマートフォンを代表するiフォンを始めiブック、iパッドなどのメーカーであるアップル(A)、オフィス用PCアプリパッケージの最大手であるマイクロソフト(M)、インターネット通販の最大手であるアマゾン(A)、インターネットを通じた映像・音声配信最大手グループの1社であるネットフリックス(N)、そして検索エンジンの最大手であるグーグル(G)。

 「バラはどんな名で呼ぼうとバラだ。美しさにも香りにもなんの違いもない」ということばもあります。

フェイスブックのメタへの改名は、「インスタグラムもワッツ・アプも展開している企業グループの社名としてフェイスブックはふさわしくない」というだけの理由による社名変更なのでしょうか? それとも、もっと大きな意味が隠されているのでしょうか?

今、世界経済は重大な岐路に差しかかっています。2020年春ごろ全世界を席捲した新型コロナウイルス、コヴィッド-19の影響による低迷は、新規感染者数や犠牲者数がかなり低下した2021年末になっても急速な回復というにはほど遠い状態です。

低迷する世界経済で気を
吐く米株市場を支える6銘柄

その中で、ひとり気を吐いているのが株式市場を中心とするアメリカの金融業界です。

しかし、コロナ後もたびたび史上最高値を更新しているアメリカを代表する株価指数、S&P500株価指数を細かく検討すると、快調に上昇を続けているのは採用全銘柄中でわずか1.2%に過ぎないFAMANG6なのです。

 


アメリカ株全体が好調のように見えますが、S&P500株価指数からFAMANG6社をのぞいた残る496社のパフォーマンスは14年弱でやっと2倍を超えた程度です。

S&P500から6社を引いたら494社ではないかと思われるかもしれません。ですが、現在この指数に採用されている銘柄数はぴったり500ではなく502銘柄なので、502マイナス6=496となります。

S&P496の上昇率は年率換算で約5%となり、もちろんほぼ横ばいを続けたアメリカをのぞく全世界株価指数に比べればマシですが、ブームというほどの値上がりではありません。

FAMANG6社のほうは、同じ期間内にほぼ13となっています。こちらは、年率にして20%を超える値上がりが14年弱も続いたのですから、ずいぶん持続力のあるブームだったと言えるでしょう。

次のグラフを見ると、この13倍の値上がりのうち11倍分はFAMANG6社が順調に利益成長を続けていたから達成できた、健全な値上がりだったことがわかります。


S&P500採用銘柄の中でも、やはりこの6銘柄は他の496銘柄に比べて圧倒的に収益の伸びが良かったことが確認できます。

逆に、この6銘柄をのぞいたS&P496とアメリカをのぞく全世界株価指数の1株利益の上昇ぶりを比べると、ほとんど差がありません。

ただ、FAMANG6社の1株利益は11倍になっただけなのに株価は13倍ですから、同じ収益に対する株式市場の評価も上がっていたことがわかります。

株式市場では、株価を1株利益で割った倍率(株価収益率、PER)を、ある銘柄が割高か、割安か、適正かを判断する目安にすることが多いのです。同じ3つの指数のPERがどう変化してきたかを見てみましょう。


FAMANG6社は、2020年夏の40倍という異常な高さこそ脱したものの、30倍近辺というのはやはりそうとう割高な水準と見るべきです。

仮にこの6社の収益成長がストップして毎年同額の1株利益しか出せなくなったとしましょう。PER30倍というのは、1株利益を全部配当に回したとしても投資家が配当で投資額を回収するまでには30年かかるということです。

同じ株を30年間持ちつづけたとしても、その間の科学技術の進歩や生活習慣の変化などにその企業がついていけるかどうか、わかりません。

これが15倍程度ならあまり心配する必要はないでしょうが、1819倍となるとかなり不安です。

アメリカをのぞく全世界株価指数の約15倍は、高すぎも安すぎもせずほぼ妥当な水準と言えるでしょう。S&P496のほうは1819倍ですから、やや割高です。

FAMANGはたしかに順調に収益を伸ばしているけれども、株式市場関係者はその収益の伸びを上回る勢いで買い進んでいるので、どんどん株価が割高になっているという結論に達します。

これだけ株価が上がっても大丈夫と言えるほどの収益成長がなければ、いずれは見放されて、売り優勢の相場展開になるでしょう。

そうなると、収益成長によってではなく株価が下がることによって、FAMANGが適正な株価水準に引きずり降ろされることになっても、少しも不思議ではありません。

フェイスブックを襲った
1兆ドルクラブ脱落の危機

ちょうど「FAMANG6社は、株価の高さを正当化するほどの収益成長を実現できるのか」という疑問が市場関係者のあいだでも話題になりはじめたころに、フェイスブックにとってかなりショッキングな事態が勃発しました。

じつはFAMANG6社の中でもNに当たるネットフリックスは、売上も時価総額も小さく、利益率も低いみそっかす的な存在で、残るハイテク5社がその他の全企業をはるかに引き離す「1兆ドルクラブ(時価総額1兆ドル以上企業群)」を形成していたのです。

まず、これまで検討してきたFAMANG6社にEV(電気自動車)業界最大手のテスラを加えて、各社の1分間ごとの売上高と時価総額を比較した表を見てみましょう。


ご覧のとおり、テスラの1分当たり売上高はハイテク6社中ではみそっかす扱いのネットフリックスよりは大きいですが、1兆ドルクラブ会員の中では最小だったフェイスブックと比べても40%弱と、かなり規模が小さくなっています。

ところが、2020年春、新型コロナウイルス、コヴィッド-19は大疫病だというキャンペーンが成功しはじめたころから、「地球温暖化が人類の存続を脅かす危機を招く」という一時下火になっていた恐怖宣伝も勢いを盛り返してきました。

「地球温暖化を防ぐためにはハイブリッド車程度では生ぬるい。完全に電力だけで動くEVを導入し、ガソリンエンジン車は全廃しなければならない」という議論が優勢になってきたのです。

それとともに、EV最大手のテスラ社の株価が急騰し、業績の裏付けはほとんどないのに、フェイスブックに代わって全アメリカ株の中で時価総額第5位にのし上がってしまいました。


このグラフのサブタイトル「FAMAGよりMAGATのほうが大きくなった」は、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンに次ぐアメリカ株時価総額第5位企業がFacebook)からTesla)に変わったことを示しています。

それと同時に、テスラは上場以来初めて時価総額1兆ドルを突破し、逆にフェイスブックは7月から9月にかけて約2ヵ月維持していた時価総額1兆ドルクラブ会員の座を明け渡しました。

ここから先は、ウェブマガジン『増田悦佐の世界情勢を読む』創刊準備号『「超宇宙」での君臨を夢見るフェイスブック改めメタの野望』でお読みください。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

土井としき さんの投稿…
『増田悦佐の世界情勢を読む』を創刊、おめでとうございます。

増田さんの分析は、知識(頭脳)と知恵(内蔵思考)の両面から書かれている。だから、その両面から理解しようと心がけています。
これは吉本隆明の言う、指示表出と自己表出ですから。

そこで私は、下記の著作をベ−スにして読んでいます。

①吉本隆明の『超資本主義』(頭脳)
②三木茂夫『内蔵とこころ』(内蔵思考)
 ✤三木は、第二の心(言語)とみなしている。
 更に、猫好きなので吉本隆明の長女の、
③ハルノ宵子の『それでも猫は出かけていく』
を参照しています。

ご参考まで。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
そして、過分なお褒めをいただき恐縮です。
三木成夫さんという方は、今までまったく存じ上げない著者でしたが、タイトルを眺め渡しただけでもなかなかおもしろそうな本を書いていらっしゃいますね。
勉強してみようと思います。
土井としき さんの投稿…
或るブログから。→
https://blog.goo.ne.jp/usmle1789/e/f55ed35f61efd6cb23c02e30d16d9943

三木成夫先生の「人間生命の誕生」築地書館 (1996/07)を再読しました。
**********************
没後ますます評価の高まる著者の、未だ成書にされていない論文、講演録、エッセイなどを、生命論・保健論・人間論・形態論として編んだ、「三木学」のエッセンス。 **********************
三木(茂夫)先生は解剖学、発生学の先生です。
自分が最初に三木先生の著作を読んだのは

〇「胎児の世界―人類の生命記憶」(中公新書)(1983/5/23) という本ですが、この本には医学部学生時代にコペルニクス的転回のような認識の転換の衝撃を受けたものです。 それ以来、三木先生を私淑しています。

・・・・・ ひとは、一つの受精卵から、果てしなく卵割を繰り返して、60兆個の多細胞生物になります。 その過程で、からだの中のいろいろな臓器がつくりあげられていきます。 そのプロセスを研究するのが発生学という学問ですが、三木先生はヒトの胎児の発生を虚心坦懐に見ている過程で、様々な生物との共通項を見出すに至りました。
それは、胎児が赤ん坊になっていくプロセスが、まるで海から陸へと進化していった生物の歴史(生物は、3億年前古生代終わりに本格的な海から陸への上陸を果たしました。)そのものの歴史を繰り返しているようだ、という気付きです。(以下、略)
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
読書案内にぴったりのブログをご紹介いただき、ありがとうございます。
「人類は胎児のころに生命の歴史を追体験している」という話はどこかで聞いたことがあります。
三木成夫さんが言い出したことなんですね。
夢野久作の『ドグラマグラ』も思い出しました。
土井としき さんの投稿…
>人類は胎児のころに生命の歴史を追体験している」という話はどこかで聞いたことがあります。

恐らく、[どこか]とは、吉本隆明だと思います。

貴兄とともに、’70年安保世代ですから、
少なからず吉本から影響をうけていますから?

私は今、吉本隆明の言語美 共同幻想 心的現象
の三論文ではなく、長女のハルノ宵子や吉本
ばななの本や、吉本隆明では
食や経済や自著などの[語る]本を読んでいま
す。頭が無意識まで届くには、やはり[語る]
本が良いようです。

貴兄の本やブログへの期待が大です。
ご健勝ください。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
私も、吉本隆明は共同幻想論のような構えた議論ではなく、『背景の記憶』の編集者が苦労してあちこちにほんの少しずつ書き散らしていた身辺雑記を集めたもののほうが好きです。
匿名 さんのコメント…
FAMANG6社を除く、496社に比べれば日本の株価のまんざらでもないですし、調整が入る時は、値上がりした6社も横ばいの496社も下げ幅は別にして、下げるしかないのは、やはり不条理ですね。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
株は、もちろん企業の実績ではなく、将来の業績に対する期待でもなく、将来の業績への期待に関する人気投票で動くものですから、みんなが「行け行け」ムードのときは上がりすぎ、幻滅に変わったときには下がりすぎるものだと思います。
どちらに向いたときも奔流になりますから、うまく泳ぎ切れるという自信のある人以外、手を出すべきではない世界ですね。