約40年ぶりのアメリカ消費者物価急騰は最悪の政策インフレ

こんにちは
12月10日(金曜日)に発表されたアメリカの消費者物価指数(CPI)が、前年同月比で6.8%、約40年ぶりの急騰となり、話題になっています。

「今度こそインフレ率が高止まりする。ひょっとしたらハイパーインフレになるかもしれない。株や商品などのリスク資産を買って、インフレによる貨幣価値の低下に備えるべきだ」といったご意見も出ています

ほんとうにそうでしょうか?

消費者物価の中で、急騰している
のはエネルギーと輸送だけ

まず過去半年間のアメリカの消費者物価で、どんな製品やサービスが急騰しているのかを確認するところから出発しましょう。


ざっとこの表を見渡しただけでも、さまざまな製品やサービスの価格が軒並み急上昇する気配はないことがわかります。

前年同月比で20~30%台の暴騰となっているのは、輸送とエネルギーという2分野だけです。しかも、この2分野は一部重複しています。

それ以外の分野は、食料・飲料が10~11月の2ヵ月連続で5%台に乗せている以外、全項目0~4%台の上昇率にとどまっているのです。

「たった半年でこんなにインフレ率が上がったのだから、政府・中央銀行が早めに手を打たないとインフレはどんどん他の分野にも波及して、収拾のつかない事態になる」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

でも、もっと長期にわたる物価動向を見ると、むしろ現在の物価上昇率の加速の不自然さがはっきりわかってきます


アメリカの消費者物価統計は、商務省でも大統領府でもなく、労働省労働統計局が担当していて、ふつうの経済統計とは部門別のくくり方が違います。

あらゆる製商品とサービスを8つの分野に分けているのですが、それが上のグラフでは折れ線で表されています。エネルギーは単独の分野ではなく、住宅のごく一部と、輸送のかなり大きな部分とに分散して集計されています。

ただ、この2部門からエネルギーだけを抜き出して足し合わせたものの価格動向が、上のグラフでは薄い空色のシェードで描かれています。

一目瞭然と言うべきでしょうが、エネルギーはあらゆる分野の中でいちばん大きく乱高下する項目です。

中国の資源浪費型高成長がピークに差しかかっていた2008年半ばにはすでに2000年から約150%上昇(2.5倍)となったのですが、その後は一度もこの水準を抜くことなく、2020年の大統領選でバイデンが当選するまでは、延々とジリ貧状態を続けていました。

輸送もまた、バイデン当選まではジリ貧傾向にあった部門で、2020年春には万年水面下の衣料品、20年間でわずか20%しか上昇していなかったレクリエーションに次いで、3番目に上昇率の低い分野でした。

輸送の大ざっぱな内訳は自動車(新車+中古車)、自動車部品、自動車メンテナンス費が約3分の2で、残る3分の1はガソリン中心の燃料費、公共交通機関の乗車賃は微々たるものという構成です。

トランプ政権下ではどちらもややデフレ気味だったエネルギーと輸送が、「化石燃料全廃と自動車の全面EV化」を唱えるジョー・バイデンが大統領になるやいなや、消費者物価上昇の急先鋒になっているのです。

どこか変だとお考えになりませんか?

「地球温暖化危機」説は、重厚長大産業
・天然資源採掘産業の必死の延命策

アメリカで、エネルギー産業と輸送部門の太宗を占める自動車・自動車部品産業がそろって過去20年間低迷してきたについては、単純明快な理由があります。

先進諸国を筆頭に、ほとんどの国の消費者がモノを買いあさるより、いろいろなコトを体験するためにおカネを遣うようになっていることです。

ですから、今どきGDP成長率を高めるには、それを上回る率でエネルギー資源投入量を増やさなければならないという経済構造になっているのは、中国、インド、ロシア、アフリカ諸国といったかわいそうな経済構造を脱却できない国々だけです。

現代経済における先進諸国とは、1%のGDP成長を達成するのに必要なエネルギー消費量を1%未満の増加に抑えることのできる国々のことです。

そして、日本はこの省エネ型経済成長で一貫して先進諸国の先頭に立ってきました。1965~2005年の40年間で、日本経済が達成した実質GDP成長率は、ほぼ正確に5倍でした。

その期間中に製造業のエネルギー消費量は63万テラカロリーから157万テラカロリーに増えました。一方で、製造業のGDPに占めるシェアは31.5%から26.1%へと5.4ポイント低下しました。

第3次産業を中心とするオフィス・店舗などの業務用エネルギー消費量は、同じ期間に8万テラカロリーから47万テラカロリーへと6倍近い伸びを示しました。ですが、2005年の時点でも、エネルギー消費量は製造業の3分の1にもなりません。

これだけエネルギー消費量の少ない第3次産業がGDPに占めるシェアは、43.7%から67.2%へと23.5ポイントも激増していたのです。

製造業の3分の1弱のエネルギー消費で製造業の2.6倍近い価値を生み出していたのですから、日本の第3次産業がいかにエネルギー効率の高い分野だったか、おわかりいただけると思います。大ざっぱに言えば、日本の第3次産業は製造業より8倍近くエネルギー効率が高いのです。

アメリカ経済は省エネという観点からは、先進諸国ではビリから数えたほうが早い国です。それでも、成人1人当たりの年間自動車走行距離は、ガソリン代が上がろうと下がろうと関係なく毎年減少しつづけています。

アメリカでも、ガソリンを中心に原油消費量が下がるのでオイルメジャーの業績は低迷が続くという状態が定着していたころ、突如復活したのが「地球温暖化の元凶は人為的な二酸化炭素の排出量増加だから、気候変動危機を回避するには化石燃料を全廃しなければならない」という主張でした。

私は、なんとか減少する一方のエネルギー消費量を埋め合わせるために化石燃料価格を吊り上げることが、「地球温暖化危機」説のほんとうの狙いだと確信しています。

太陽光や風力といった「再生可能エネルギー源」による発電は、稼動率が平均で10~20%に過ぎず、依存度を高めてしまってから天候不順で稼動率が大幅に低下すると、人命に関わる電力不足を招きます

ヨーロッパのドイツやイギリス、アメリカではカリフォルニア州やテキサス州などの「再生可能エネルギー」による発電に熱心に取り組んで来ました。

これらの国や地域では、2020年暮れから2021年春にかけて、突然の長期停電による莫大な経済損失や、停電中に暖房ができずに凍死する方が続出するといった痛ましい事故さえ起きています。

一方、世界的な寡占状態を達成しているエネルギー大手各社は、これまで比較的すんなり減産や、新しい化石エネルギー資源を確保するための探鉱・試掘予算の削減を受け入れてきました。

オイルメジャーを筆頭にエネルギー大手各社は、電力各社が慌てて火力発電を増やしたために原油、天然ガスばかりか石炭まで大幅な値上がりを達成できて、濡れ手に粟のボロ儲けをしています。

アメリカの政治経済「奥の院」はコロナ騒動も
経済サービス化の流れを押し戻す手段にした

こうした状況の中で、アメリカ経済が突然のインフレ率加速に見舞われた理由を再検討してみましょう。

いちばん特徴的なのは、ちょうどコロナ禍第1波がマスメディアで大々的にあおり立てられていた2020年の春以降、顕著にサービス業の売上も落ち、価格も低下気味になる一方、ときならぬ耐久消費財ブームが起きていたことです。


ご覧のとおり、過去5年間にわたってほぼ安定して年率約2%の価格上昇を確保していたのはサービスだけです。それだけ持続的な値上げにも付いてくる、消費者側の旺盛な需要があったわけです。

一方、食料価格は非常に低い値上がり、製品価格はほぼ横ばい、エネルギーに至っては明白に値上がりから値下がりに転じていました。

ところが、まさにコロナ騒動とぴったりタイミングが合うかたちで、サービス価格の値上がり率が低下し、それまで横ばいから下落気味だった製品価格が徐々に大幅な値上がりに転じたのです。

もちろん、エネルギー価格の場合年率約2%の値下がりから約2%の値上がりへと、地獄から天国への派手な逆転があったことは、すでにご紹介したとおりです。

私は、ほとんど意味のないロックダウン(都市封鎖)を実施した州や大都市が多かったのは、強引に消費者の需要をサービスから製品へとねじ曲げるためだったと思います。

同じ場所に同時に売り手と買い手がいないと生産活動が成立しないことの多い消費者向けサービス業は、営業拠点を閉めさせられるととたんに売上も落ちますし、失われた営業時間を在庫増に使って、あとから取り返すこともほとんどできません。

とくにニューヨークのレストラン街などでは、既存店舗の40~60%がいつ店仕舞いに追いこまれても不思議ではないと言われるほど、業績が落ちこんでいます

皮肉なのは、延々と戦線縮小が続いていたアメリカ製造業の生産現場では、この突然の需要増に対応できなかったことです。

いくら価格が上がっても急には増産できなかったために、結局中国からの輸入品に急増した需要を吸い取られてしまったセクターが多かったようです。

しかし、中には確実に需要急増を好業績に結びつけることのできたセクターもありました。それが自動車産業です。

「全面EV化」の恐怖と、コロナ禍を
口実とした需要転換で潤う自動車産業

耐久消費財の中でも最大のビッグチケット・アイテムである自動車市場は、新車もかなり大幅な値上がりにもかかわらず売り上げ好調です。

しかし、それ以上に驚異的な活況を謳歌しているのが中古車市場です。


コロナ前の中古車市場は、売り手側の提示価格からいくら値引きをすれば売れるかという市場でした。ところが、コロナ後は提示価格より高くても買うという客が激増し、ご覧のようにすさまじい値上がりが続いています。

それでも、ディーラーは値段を吊り上げすぎて売れ残ることより、在庫の払底を懸念するほどの売れ行きが維持できているといいます。

また、コロナ後の急騰ぶりに隠れて目立ちませんが、2011~16年まで横ばいから下落気味だった価格が、2017年以降は上昇に転じていたことも見逃せません。

最大の理由は、ちょうどこのころから「ガソリンエンジン車を全廃して、自動車はすべてEV(電気自動車)か水素燃料車にする」という主張が、欧米諸国で支配的になってきたことではないでしょうか。

欧米諸国の中でもアメリカの消費者は、自動車買い換えサイクルの短いことがよく知られています。ですが、最近ではその買い換えサイクルが長期化して、自動車保有台数はほとんど変わらないのに毎年の売上台数が減少する傾向が顕在化していました。

この事実は、アメリカの自動車メーカーのみならず、日本以外の世界中の自動車メーカーにとって深刻な脅威なのです。

日本製の自動車は中級車であっても、耐久性、堅牢性といった性能で1台ごとのばらつきが少ないことがよく知られています。その点では、おそらくベンツやBMWのようなドイツの高級車より評価が高いでしょう。

実際に、同じオーナーが14年以上同じクルマに乗りつづけているというブランドを調査すると、トップ10は日本車が独占しています。

ガソリンエンジン車を全廃してEVや水素燃料車しか生産できないようにしよう」というのは、ガソリンエンジン車では日本メーカーが造るクルマの耐久性に絶対にかなわない米・独・伊・中自動車メーカー弱者連合による、シェア奪回作戦に過ぎないと思います。

しかし、EV業界最大手のテスラを始めとして、リチウムイオン電池を搭載したEVは、中央分離帯に乗り上げただけでも運が悪ければ爆発炎上するほど危険な乗りものなのです。

長時間クルマに乗りつづける必要がある人たちにとって、燃料はガソリン、天然ガス、ディーゼル油と多様でも、短時間にかんたんに燃料補給のできる内燃機関車が製造停止になってしまうのは、悪夢というべき未来図です。

私は、アメリカ中の実用性を重視するドライバーたちが必死に製造中止になる前に内燃機関車を買い溜めているのが、この間の空前の中古車ブームの真相だと思います。

いずれにせよ、アメリカ経済のときならぬインフレ加速は、ほぼ100%政策によってもたらされたものです。しかも、これは政策を間違えてしでかした失敗ではありません。

滔々たるサービス化経済への流れを押しとどめるために、エネルギー産業や重厚長大産業の寡占企業が国民一般に多大な損失をかけることを承知でやっている、確信犯のインフレ政策です。

これまで比較的おとなしく寡占企業の横暴に耐えてきたアメリカ国民も、そろそろ本気で反乱を起こしても不思議ではない世相になってきたと思います。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
日本の製造業のエネルギー効率が極めて高いのは承知していまたが、日本の第三次産業のエネルギー効率がそれを遥かに上回るとは、初見です。

世界に冠し、全世界工業力の過半を誇った国が100年にも満たない歳月の中で、極一部での最先端工業力の余韻を残すだけになるとは思いもよりませんでした。

製造業を喪失した国とは、自立性・独立性を失わざるを得ない事だと、改めて感慨に浸るものです。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
経済史家でさえご存じない方が多いのですが、人類は投下資本利益率が高いものから収益機会をつかみ、そこが飽和状態になると次の産業に移りというかたちで、これまで経済を育ててきました。
たとえば、採集・狩猟・漁労経済は先行投資ゼロで獲物を取れるので投下資本利益率∞から出発し、徐々に投下資本が必要な場所に収益機会を求めていきました。
種籾を必要とする農業は、かなり投下資本が大きくなりましたが、それでも水田稲作では初期からタネ1粒当たり20~30粒の収穫を確保し、もっとも収益力の低い小麦でさえもタネ1粒当たり2~3粒の収穫がありました。
近代工業になると投下資本利益率が100%を超えるような事業はめったになくなります。
何が申しあげたいかと言うと近代機械制工業生産は、莫大な先行投資を必要とする割にはエネルギー効率も悪く、構造的にもろい生産様式だということです。
経済を主導する産業が製造業からサービス業にすでに変わっていることについても、「労働生産性の低さ」を根拠に暗い時代だとする見方や、同じく労働生産性を根拠に今もなお経済主導産業は製造業だと主張する向きもあります。
しかし、機械装置や原材料、エネルギー資源をかっこの中にくくった労働生産性比較で製造業が突出しているのは当たり前です。
ですが、エネルギーを人間を豊かにするために利用する効率で見ると、サービス業は採集・狩猟・漁労時代に逆戻りしたと言ってもよいほど、効率が高まっているのです。
そして、江戸時代から驚くほど細やかにサービス産業における分業の利益を享受してきた日本が、サービス産業が牽引する世界経済において世界をリードするのは、当然だと思います。