植民地型利権社会を象徴する、アメリカの医療費と大学授業料の高さ

こんにちは
今日は前回の続きとして、アメリカが今もなお植民地型の利権経済を維持している国であることの意味を考えていきます。

アメリカ中の産業団体、職能団体が政治権力を握っている人たちににじり寄って、少しでも自分たちに有利な法律制度をつくらせて、がっぽり儲けようと狙っています。

ただ、もともと利益率の高い業界がカネにものを言わせてさらに儲かるようになっていくかというと、そうでもありません。

隆盛を極める人質産業

やはり、消費者がどんなに高くついても、この商品やサービスを買わないわけにはいかないという分野の産業や職能団体が、ロビイストを通じた政治献金(ワイロ)でますます儲かるようになっているのです。

ちょっと長期的にその実態を見てみましょう。


1982~84年の平均値を100とした指数表示で、特徴的な価格動向を示した消費品目の値動きをグラフにしてあります。

なんといっても目立つのが医療サービス、つまりお医者さんに診ていただいたり、病院に入院したりすることのコストです。医薬品・医療機器が30年強で3.3倍ぐらいなのに対して、医療サービスは約4.7倍に値上がりしています。

これはやはり、医師の診察や施術を受けるときや入院するときには、医薬品・医療機器を選ぶとき以上に切迫した病状があって、お値段がサービスに釣り合っているかどうかなどということを慎重に検討する余裕がない状態で支払ってしまう出費だからでしょう。

あけすけに言ってしまえば、アメリカの医師や病院は命を人質に取った商売をしているわけです。

そして、ふつうに民主主義的な体制を持っている国なら、立法機関や行政機関があまりにもあくどい価格の吊り上げには歯止めをかけるはずです。でも、1946年にロビイング規制法が成立してからのアメリカでは、議員、大統領、各省の長官、次官クラスの役人たちが完全に医師会や病院業協会に抱きこまれてしまっています。

アメリカでは、なかなか西欧諸国や日本並みの国民皆保険制度が確立できません。最大の理由は、医師や病院や製薬会社に対して強力に値切り交渉のできる組織をつくられてしまったらお手盛りの値上げができなくなるので、こうした医療関係の産業・職能団体が猛反対するからでしょう。

トランプの前任で、2008年の大統領選に勝って、2009年1月から2017年1月まで2期連続で大統領を務めたバラク・オバマの内政での目玉政策は、「国民皆保険を実現するオバマケアの導入」でした。

しかし、結局は低所得者向けのメディケア、高齢者向けのメディケイド、そして企業単位で勤労者が加入する民間健康保険を不細工につぎはぎしただけで、国民皆保険とはほど遠い制度にしかなりませんでした

民主党の大スポンサーである医療関連業界による「自分たちの利権構造に風穴を開けられては困る」という突き上げにあって、民主党内さえまとめることができなかったからです。

かなり底意地の悪い嫌がらせ的な制度の微調整もありました。


それまでは、医療費上昇分を全部消費者に負担させてはかわいそうなので、国や雇用主や健康保険会社が値上がり分の一部を吸収してくれていました。ですが、オバマ大統領の就任2年目ごろから、医療関連支出の値上がり分以上に消費者の実費負担が上がるようになってしまったのです。

一応この期間を通じて勤労者の賃金は物価全体より上昇率が高かったのですが、大病を患ったり、大けがをしたりすればそんな差額は消し飛んでしまうほど、医療費の消費者負担分は増えていました。

さて、じつは長期で見て最初のグラフの医療サービス以上に値上がりしていた分野が2つあります。どんな分野かおわかりでしょうか?

そのうち1つは、次のグラフに出てきます。


答えのうちの1つは、大学卒業資格を取るための諸経費です。

さっきのグラフでは、医師の診察・施術と病院がこみで医療サービスとなっていました。こちらは病院サービスを独立させているので病院サービスがいちばん高くなっていますが、医師の診察・施術料とこみにすれば大学卒業のための諸経費ほど値上がり率は高くありません。

いちばん専門性が低く、緊急入院する人は病院を選べないから最大限のぼったくりをしているだけと言ってもいい病院サービスが、細目に分けると医療関連分野の中でいちばん値上がり率が高かったという事実には、腹が立ちますが。

先ほど医療サービスは30年強で4.7倍になったと申し上げましたが、その間に大学教育の費用は7~8倍になっていました。

さて、医療や大学教育よりはるかに値上がり率が高かった分野は、いくら探しても消費者物価の分類には出てきません

軍需産業が製造し、陸海空軍、海兵隊、州兵組織が購入している兵器です。これはもう、買い手はお役人や軍人たちで、購入費は自分たちの腹が痛むわけでもなく国民が払った税金で払うわけです。おまけに金額が高くなるほど懇意にしている兵器製造業者からのキックバックも大きくなるので、値上げは大歓迎です。

軍需産業で生産している製品やサービスには、30年も経たないうちに価格が10倍とか20倍になる品目がゴロゴロあります。

大学教育も立派な人質産業

さて、なぜ大学授業料は医療費と並んで値上げを通しやすい分野かというと、こちらは子どもたちの将来の経済的な安定を人質に取った商売だからです。

日本が大変な学歴社会になっているとお嘆きの方が多いように思います。でも、実際には少なくとも5~6年前に私がチェックしたかぎりでは4年制大学卒業者より工業高専卒業者のほうが生涯所得は高かったのです。現状でもあまり変わっていないのではないかと思います。

アメリカが、日本よりはるかに実質本位の学歴社会である証拠をご覧ください。



生涯所得ではなく、年収でも学歴によってこれだけの差がつくのですから、親としてはかなり無理をしてでも大学に行かせようとします。だからこそ、大学授業料は景気の良し悪しに関係なく毎年6~7%の値上がりを通すことができるのです。

ただ、アメリカはすさまじい利権社会であると同時に、まだまだ歴然とした人種差別社会でもあります。

そこで、4大卒資格を持つこと、あるいは大学院教育を受けることの経済的な恩恵が、あらゆる人種民族系統の人たちのあいだで均等に行き渡っているのかという大問題も出てきます。

黒人にとって大学教育は
効率のいい投資か?

黒人とヒスパニック以外の白人で大卒資格を持つこと、大学院教育を受けることの恩恵がどの程度純資産額に反映されるかを示したのが、次のグラフです。

(なお、ヒスパニックとはスペイン語を母語としているので、就職などにかなりハンディキャップのある人たちですが、人種的には白人のことも、黒人のことも、先住民のこともあります。)


ここでは、ちょっとご注意いただきたいことがあります。それは、1930年代生まれの黒人が4大卒資格を取っているとその後の純資産の蓄積が大卒ではない人の約6倍(+509%)と非常に大きく見えることです。

ただ、これは大卒資格のない1930年代生まれの黒人が持っている平均資産額がとても低いことから来る見かけ上の恩恵であって、実際の増加額で比べれば、1930年代生まれの白人で人たちの人たちの約3.5倍(+247%)よりずっと少ないだろうと思います。

ちなみに2019年時点で、白人世帯の平均純資産が約13万ドルだったのに比べて、黒人世帯は1万ドル台とわずか10分の1に過ぎませんでした。

1980年生まれの人たちは、まだ社会人となって間もないので、資産形成を始めていない状態かもしれません。ですが、1970年代生まれでも大卒資格のない黒人世帯に比べてわずか16~18%増しにしかなっていないのを見ると、黒人が大学教育に投資することの効率は非常に低いと思います。

さらに、1960年代生まれで大学院教育を受けてしまった人たちは、同年代で4大卒資格にとどめていた人たちに比べて、資産形成が悲惨なほど遅れています

おそらく、実際に就くことのできる仕事の内容は、自分が専門的な知識や技能を発揮できるものではなく、定着できずに転々と職を変えるといった人生を送っている人が多いのではないでしょうか。

1950年代生まれまでの知的専門職教育を受けた黒人が珍しかった時代には大学院教育がかなり経済的な安定に役立ったこともあったようです。

でも、1960年代生まれ以降であまり大学院教育を受ける黒人の存在に希少価値がなくなってからは、やはり黒人が知的専門職に就くのはむずかしくなっているのが実情ではないでしょうか。

そして、1940~60年代生まれの黒人が4大卒資格を取ることでさえ、ほんとうに4年の歳月と高い授業料を払う価値のある投資だったのかという疑問が出てきます。

同年代生まれで大卒資格のない黒人世帯に比べれば、かなり資産形成が進んでいるのは確か
です。でも、同年代生まれで同じ4大卒資格を持つ白人世帯に比べたら、はるかに少額の資産しか蓄積できていないのではないでしょうか。

黒人の大学教育は投資よりリスク回避?

それでも4大卒資格を目指す黒人が多いのは、豊かになりたいという積極的な動機によるよりも、4大卒資格がなかった場合に陥りかねないかなりの困窮状態を避けたいというリスク回避行動なのではないかと思います。



ご覧のとおり、白人やアジア系では1ケタ後半に収まっている「過去1週間にときどき、あるいはしばしば十分な食料がないことがあった」という子育て中世帯比率が、黒人やヒスパニックのあいだでは20%前後と2倍を超えています。

もちろん、4大卒資格があればこうした窮状に追いこまれることがないとは言い切れません。ただ、その確率をかなり下げることはできるでしょう。

それにしても、金融業界やハイテク大手の経営者たちからは続々と10億ドル長者が誕生している一方、人種・民族系統に置ける少数派に属する人たちのあいだでは、満足に食べたいものを食べることもできない人たちが5世帯に1世帯もいるのです。

次回は、こうした社会情勢が中間層から下の所得・資産水準の人たちにどんな影響を及ぼしているのか、考えていきます。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
日本の大学の授業料も安いものではなく、奨学金(借金)までしても行かなければいけないものかとも思いますが、米国の学資は正に日本の常人では払い切れない額ですね。

ただ、人は植民地支配を意外と好む事を改めて認識しました。
スリランカのコロンボ港の改修に米印日の協力プロジェクトが起工まじかまで行った物が、急遽中華人民共和国の借款・施工に切り替わったのには驚きました。
日本が加わった工事なら100年位は、それほど大きな改修も必要なく、借款もほぼアンタイドな物を、わざわざ中華人民共和国にそっくりのしを付けて差し上げる契約に飛び込むとはです。

かって、セイロンと言われていた頃のスリランカでは思いもよばないものです。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様
コメント有難うございます。セイロン時代には、南インドに多く住んでいるドラヴィタ族特有の温和でのんびりした国民性が特徴的だったのに、いったいどうしちゃったんでしょうね?
匿名 さんのコメント…
米国の大学、以前のクラスメートがニューヨークに住んでいますが、子供2人を大学に送り出すことはあきらめたと。行くなら自分で頑張りなさい、私にはその学費をとても払えない、との事でした。日本はその点恵まれていると思います。
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様
コメント有難うございます。長いご愛顧有難うございます。とても嬉しいです。
私は不動産市況にかかわらず、タワマン一般についてお勧めできないと思っております。
エレベーターは安全確保しながら24時間運行を続けるには結構な費用と人手を必要とする垂直方向の公共交通機関なのですが、不動産業界担当の証券アナリストをしていたころ、ずいぶん豪華物件を見学しましたが、朝夕ラッシュ待ちをせずに乗れるほど余裕ある台数のエレベーターを備えた物件に出会った経験がありません。おそらくコスト倒れになるのでしょう。
つまり、タワマンに安全かつ利便性の高い居住環境を求めることは不可能です。
ましてや、災害がらみの停電の中で、歩いて地上まで降りなければならない、しかも緊急を要するといった場合にどんな混乱が生ずるかは、未知数です。
また、私も個人的に自分は大卒資格で専門職でばりばりやっているけど、それでも子どもを大学にやる余裕はないと嘆く人を知っております。
アメリカでは確実に学歴縮小世代が生まれており、この世代が親たちの世代にどういう感情を抱いて暮らしているのかは、深刻な問題だと思います。
私と同世代の人間たちは、「4年制大学を出るには1年に1台ずつベンツか、BMWを買い替える必要がある。
しかもクルマと違って大学教育は前年買った分を下取りしてもらえるわけじゃないから仕方ない」とジョークにまぎらせていますが。
高島 さんのコメント…
先生、不動産に関する考察を披露くださり有難うございます。
勉強会について、Twitter等で告知されているのでしょうか。参加したいと考えていたのですが、もし参加可能ならば告知方法等教えていただけたら幸甚です。よろしくお願いします。
増田悦佐 さんの投稿…
高島様:
コメントありがとうございます。
勉強会にご参加されたいとのお申し出は大変うれしいのですが、運営能力にも借りている会議室のキャパシティにも限界がありますので、広く一般の皆様に告知はしておりません。
ただ、ツィッターのダイレクトメッセージなどでお尋ねいただければ、あと2~3名様程度はご参加いただくことは可能だと思います。
その場合ですが、まず次回はたまたま偶数月の第1水曜日ということで明日の午後6時からの開催になってしまいますので、あまりにもあわただしくなり、ほかのご予定との繰り合わせもむずかしいかと思います。
その次の来年2月以降でしたら、事前に予告を差し上げるためのメールアドレスなどをお教えいただければ、ご入力いただくスケジュール調整アプリのアドレスなどご案内し、当日昼ごろまでに参考資料のファイルもお送りします。
なお、ご参加の場合、おひとり様1000円の会場費を分担していただくことになっておりますので、ご諒承いただければ幸いです。
増田悦佐 さんの投稿…
高島様(追伸):
もし、たまたま明日6時から都心部においでいただけるようでしたら、私のほうはまったく差し支えありませんので、喜んでお迎えします。