世界に蔓延する電力危機は、すべて「クリーン・エネルギー」への急傾斜が原因

こんばんは
どうやら、今年秋から来年にかけて世界中が電力危機に陥り、暗くて寒い冬を迎えそうです。これは、決して突然エネルギー資源が枯渇したせいでも、人類全体のエネルギー需要が激増したせいでもありません

この問題が脚光を浴びるようになったのは、今年の春ごろからヨーロッパ諸国で天然ガス価格が暴騰したからです。

今年の春から、欧州諸国で
天然ガス価格が暴騰していた

まず、ヨーロッパでの天然ガス価格がどれほどすさまじい高騰ぶりだったかは、次のグラフにはっきりと出ています。


アメリカは天然ガスの需要をほぼ全面的に自国内のガス田からの供給でまかなっています。輸送をパイプラインに頼ってガス状のまま消費地に送れば、天然ガスはとても安くて便利で燃焼効率もよく、二酸化炭素排出量も石炭や石油より低い理想的なエネルギー資源です。

日本は、天然ガスをほぼ全面的に産ガス国で超低温で液化した上で、液化天然ガス(LNG)専用の船で輸入しています。パイプラインよりずっと輸送費が高い上に、掘り出した天然ガスの4分の1から3分の1を液化のために消費するので、どうしてもアメリカの価格より割高になります。

ヨーロッパは、天然ガスの一部を主としてロシアからパイプラインで輸入し、その他諸国からはLNG船で輸入しています。ロシアからパイプラインで輸入するものが安いので、全体としてはアメリカ価格と日本価格の中間あたりに位置していました

ところが、直近の100万英国熱量単位(BTU)当たり25~27ドルという水準は、原油1バレル当りに換算すると、なんと200ドルを超えてしまうという大変な高水準です。

アメリカで2008年に付けたWTI原油の最高値が147ドルでしたから、いかに高水準かがおわかりいただけるでしょう。

この異常な価格急騰が、世界的な天然ガス供給量の減少ではなかったことは、アメリカでも日本でも、それほど大きな値上がりになっていないことでわかります。

ヨーロッパで天然ガス価格が急騰した背景には、従来休眠させたり、極度に低い稼働率で運転していた天然ガス火力発電所の出力を急上昇させなければならなくなって、電力会社を中心に天然ガスの買い急ぎが起きているという事実があります。

電力危機の元凶は二酸化

炭素排出量激減政策

ヨーロッパ諸国とアメリカの一部の州では、原油焚きや石炭焚きに比べればはるかに二酸化炭素排出量も少なく、燃焼効率も電力への変換効率も良い天然ガス焚きの火力発電を過去数年にわたって絞りこんでいました。

問題は、なぜ天然ガス発電を絞りこんでいたのかというところにあります。

地球温暖化は人為的な二酸化炭素排出量激増が原因だ。だから、温暖化による環境危機を防ぐには、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を極端に削減し、電力供給をほぼ全面的に太陽光や風力などの『再生可能エネルギー』への依存度を高めなければならない」という政策を、あまりにも拙速に実行に移してしまったのです。

それが、現在の電力危機とエネルギー価格上昇の最大の原因です。

「化石燃料依存から再生可能エネルギー依存へ」という政策を実行した国や地域では、天候次第で電力供給量が大変動するため、去年暮れから今年の2月までの厳寒でも、今年の夏の酷暑でも、電力需要は上がっているのに供給が激減するという危機に見舞われました。

そこで、これまで休眠させていた天然ガス、石油、石炭焚きの火力発電所を急に再稼働させたり、これまで細々と運転していた火力発電所の稼働率をいっせいに高めました。

その結果、エネルギー価格一般も上昇し、とくに燃焼効率が良く、二酸化炭素排出量も少ない天然ガス価格は暴騰したわけです。

今年の3月までには、夏以降の
電力危機は予測できていた

思い返せば、去年の年末から2月にかけて、ドイツの太陽光発電所の稼働率が0%近くまで激減し、ドイツでは慌てて火力発電所の稼働率を上げてなんとか急場をしのいでいました。

また、去年の秋から現在にいたるまで、カリフォルニア州では太陽光発電の稼働率が低迷続きです。

延々と地域ごとの計画停電をくり返して、なんとか意図せざる全面停電の危機を防いでいるというのが、実情です。

全体的に電力供給量が低いため、山火事になっても出動した消防ポンプ車もフル稼働で放水することができず、大火災になってしまう事件がひんぱんに起きています。

中でも、もっとも痛ましい事態を惹き起こしてしまったのが、風力発電への依存度を高めていたテキサス州でした。

真冬でも摂氏0度未満まで下がることは想定せずに風力発電所を操業していたため、今年の1月末から2月中旬までの極寒の中で、風力発電用の風車が凍結してしまいました。

風力発電依存度が高かっただけに、テキサス州内各地で長期停電を余儀なくされる地域が続出し、数十名の方々が自宅で電力が戻るのを待ちながら凍死してしまったのです。

テキサス州最大の電力会社ERCOTの電力負荷の過去5年間の平均値と、今年の1~2月の実績をご覧ください。


白の点線が2016~20年の電力負荷実績の平均値で、やや明るい灰色になっているのが、平均値のまわりの分散です。

オレンジ色の実線が今年1月から2月半ばまでの実績なのですが、毎年冬の電力負荷は小さいのに、今年の2月初めには猛暑のさなかにたった一度だけ達成したことのある6万5000ギガワット超の高水準まで達していました。

これだけの高い負荷がかかっていたときに、州内の風力発電所のかなりの部分が風車の凍結によって稼働できなかったわけですから、高い負荷に耐えきれずに長期停電となってしまったのも、まったく不思議ではありません

太陽光や風力のように天候次第で発電装置の稼働率が激変するものに電力の大部分を依存するのは、多くの人命を危険にさらし、電力料金を大幅に上昇させる愚策以外のなにものでもありません

にもかかわらず、いわゆる「グリーン派」の環境論者たちは、平然と「今回の電力危機は化石燃料による発電への依存度が高かったことが原因だ。もっと再生可能エネルギーへの依存度を高めて、電力資源のバランスを良くしなければならない」といった論理性の欠如した主張をくり返しています。

天然ガス、石油、石炭などの化石燃料による発電の長所は、人為的に稼働率を70~90%といった高水準で維持できることです。

一方、「再生可能エネルギー」による発電は、稼働率の平均値が10~20%と極端に低く、しかも実績はその平均値から大きくかけ離れた0%まで低下することもあり、30~40%まで上昇することもあります。ようするに、まったく長期安定供給のための信頼性に欠ける発電法なのです。

最大の皮肉は世界最大の二酸化
炭素発生源、中国の動向

中国は膨大な規模と数量の石炭発電所を抱えています。

中国政府首脳は、こうした石炭発電所の脱硫装置やばい煙除去装置を改善するわけでもなく、石油焚きや天然ガス焚きに転換することで安定した電力供給を確保しながら二酸化炭素排出量を削減するわけでもなく、一足飛びに「再生可能エネルギー」発電に飛び移ることができると信じて、石炭火力発電を急激に絞りこんできました

最近になってそのとがめが出て、慌てて石炭火力発電を再稼働させているのですが、この間に世界的に石炭の採掘量も炭鉱の労働者数も激減しているので、なかなか思うように石炭が確保できずに、全国的にひんぱんな停電が起きる瀬戸際に追いこまれています。


先進諸国や中国が、「再生可能」と称してじつはまったくあてにならないエネルギー源に頼る方針を採用して高い電力料金とひんぱんな停電に見舞われるのは、自業自得です。

先進諸国や中国は自業自得と言えるが新興

国・途上国には深刻なとばっちりが及ぶ

でも、インドのような新興国や発展途上国が、従来は安値に放置されていたので買うことができていた石炭価格の高騰によって深刻な電力不足に追いこまれるのは、ほんとうに理不尽な話です。

インドの中でも東部のジャールカンド州やビハール州では、毎日電力供給量が需要量の20%以上不足しているため、ほぼ毎晩電力を使えない不便な日々を送っているようです。

そのため、ご覧いただくとおり、いかにも環境負荷の大きそうな露天掘りの炭鉱での採掘作業を促進せざるを得ないところまで追いこまれています。


「環境に良かれ」と思って採用した政策が、これだけの環境劣化を招いているのです。

「グリーン派」の皆さんには、ご自分たちの主張していらっしゃる「再生可能エネルギー源への移行」がいかに悲惨な結果を招いているかを、真剣にご検討いただきたいと思います。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
増補改訂版「クルマ社会七つの大罪」で書かれた、高速道路の無料化が出来なかった日本が、無料化出来た国々に輸送効率で遥か勝るとの事と同様に、再生可能エネルギー(不安定電源)に魅せられた国々の発電の不安定化は、さも高速道路の無料化と同様です。

ただ、巻き添えを食う国々へ、日本として貢献が出来ないのか?
と、考えてしまいます。

栴檀の葉


増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様
コメントありがとうございます。そして、拙著『クルマ社会 七つの大罪 増補改訂版』をお読みいただき、ほんとうにありがとうございます。
「新型コロナウイルスは大疫病だ」とか、「地球温暖化の元凶は人為的な二酸化炭素排出量の増加だ」といった議論は、もう科学的知見の領域ではなく、信仰告白になってしまっています。とくに先進諸国で善意からこうした誤った主張を広めようとしている人たちに対しては、日本人が苦手とする宗教論争、あるいは宗教戦争にも踏みこむ覚悟が必要かもしれません。
そのへんの事情については、近刊の拙著『日本再興~世界が江戸革命を待っている』に書きましたので、ぜひお読みいただきたく存じます。
匿名 さんのコメント…
おはようございます。増田さんのブログや本を読んでない人には、全く理解できない世界になりつつありますね。
エネルギーの高騰は全部コロナからの回復とかしか言わないし、書いてませんね。誰もグリーンエネルギーの問題とかどこにも見つけれません。そのうち増田さんの主張を読んで書く人が出るぐらいでしょうか?笑

Youtubeなどではワクチンに関しては随分前から”ワクチン”の言葉がでるとBANされてましたが、今度は気候変動に関しての記事も削除対象だそうです。11月から実施とのことです。書くのは自由なんでしょうけどアドセンスは付けないと脅迫じみたことを言ってるようですね。グーグルやFBは大企業だとは思いますが、何故これらのことを民間企業の彼らが勝手に決めれるのかが、私には理解できません。コロナを切欠に民主主義の仮面を被った全体主義になってるように思えて、非常に心配します。
土井としき さんの投稿…
監視社会への願望実現入院につきますね。
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様:
コメントありがとうございます。
ほんとうにコロナ前がカンカンの好景気だったわけでもなく、そのころエネルギー資源は延々と安値に放置されていたにもかかわらず、大本営発表が「コロナからの回復でエネルギー価格が上がった」と言えば、そのとおりに書くだけなのですから、最近の新聞記者やテレビ局報道部の人間は、昔の八百屋や魚屋の御用聞きをしていた人たちほどにも、自分の頭で考える訓練ができていませんね。
SNSも、それと同じような報道を垂れ流すだけの人たちばかりがもてはやされているようですし。
まあ、私にとっては独自性が際だってありがたいことですが。
全体主義と言うよりは、「科学」の名を騙った新興宗教の世界に大衆を引きずりこもうとしているように見えます。
ただ、「ワクチン」批判や「地球温暖化説」批判を封殺しようとするのは、自分たちの主張がいかに根拠薄弱かを問わず語りに白状しているようなものですから、そろそろ真実に気づく人たちも増えてくれるのではないかと期待しています。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
たしかに監視社会であり、病院化社会であり、いちばん狂信的なコロナ教信者が牛耳っているオーストラリアのシドニーなどでは「在宅のまま隔離病棟に強制入院させられる」社会になっていますね。
ここまで狂気が募ってくると、そろそろ明るい展望も開けてくるのではないでしょうか。
「これまでさんざん戦争の危機を煽って値上げを図っても上がらなかった原油、天然ガス価格を急騰させてくれたグレタ・ツュンベリは石油・天然ガス業界のアイドルになっている」という報道などはジョークのように見えて、真相をうがっているのではないかと思います。
YAMADA さんのコメント…
御返事ありがとうございます。
名前を書き忘れていて申し訳ありませんでした。
書き忘れたのですが”ノーベル賞”ですが、今の時期にと腑に落ちませんでした。
喜ばしい事だと思うのですが、その説は説ですよね?証明されたことでは、ないのではないでしょうか?
大昔に”第三の選択”って詐欺番組がありましたけど、幼かった私はコロッと騙されてしまいました。
その時も二酸化炭素が増えて、地球が住めなくなるってストーリーでした。

もう一つ”グレタ”という少女ですが、彼女は一体何者なのでしょうか?
ジャンヌダルクに例えているメディアを見ると、非常に不可解に感じます。
ジャンヌは宗教界に上手い事こき使われて、最後は殺されてしまいますよね?
どうにも理解しがたい世界です。
増田悦佐 さんの投稿…
YAMADA様:
コメントありがとうございます。その前の匿名でのコメントもやはり山田さんでしたか。
真鍋淑郎という人は、はっきり言って時流におもねって莫大な研究費を引っ張ってくることの得意な、いかにも「アメリカ型」の科学者ですね。彼の功績はほんとうに地球の大気全体が温暖化しているものなら、地表面より蓄熱能力の高い海水面が多い南半球のほうが温暖化のペースは速いはずなのに、北半球のほうが先に温暖化していることを説明するモデルを構築したこととされています。
しかしこれが、まったく異質の陸地用と海面用のモデルを、自説に都合のいいようにつぎはぎしたモデルなのです。
また、「温暖化でサハラ砂漠で昔のように農業ができなくなったからアフリカからヨーロッパに大量の移民が行くようになった」とか、信じられないほど実証データを無視した虚言を弄しています。
なによりこの人のインチキ性を立証しているのが、「世界でいちばんぜいたくにスーパーコンピューターを使う男」という異名を取っていることでしょう。大資本のヒモが付いていなければそんなことができるはずはありません。
こういう人がもっともらしく、あなた方人類一般が化石燃料を燃やし続けるから地球は温暖化するのだ」とお説教をたれるのは盗人猛々しいという言うべきでしょう。
もう15、16歳になっていたはずのグレタ・ツュンベリがスウェーデンからアメリカに行くのに、小型ヨットに乗って数千人がジェット機で横断するよりはるかにエネルギーを浪費しておいて、「地球温暖化を防ぐためにだれもジェット機には乗るな」とお説教したのと好一対(あるいは悪一対?)の茶番です。
とにかく、いいお題をいただきましたので、あまり遠くない将来、このふたりをネタに一本おもしろい記事を投稿したいと思います。ご期待ください。
土井としき さんの投稿…
日本再興~世界が江戸革命を待っている』が楽しみです。
また、アメリカ型の日本を含む科学者の現在は、日米構造協議に原型があると思います。全ての分野に正確にメスを入れられている。日本の経済を正確に分析尽くして、これで戦争をやる気になるおかしい、とまで言われている。日本の経済関係の研究者.学者.官僚.政府の実力を見すかされていた気がする。
アメリカに又、負けた気がした次第です。これは、重要な感想です。対等な力でアメリカの経済のどこに欠陥があるか、どこを変えるか降参するぞ。それだけでアメリカの戦争介入を抑制出来るからから。残念ながら、日本には対等に返すだけの力がない。怠惰といえば怠惰だ。これらをと指摘出来ているのは増田悦佐さんだけだから、小生の今がある。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
構造協議以来いちだんと目立ってきたかもしれませんが、私は日本のリーダーがだらしないのは、縄文時代以来の伝統だと感じています。
そして、リーダーがだらしないにもかかわらず大衆が賢いから大丈夫というより、リーダーがだらしないからこそ大衆が賢くならざるを得ないのはすばらしいことだとも考えております。
そのへんは近刊の拙著でくわしく書いておきましたので、ご期待ください。