アメリカ全世帯の8割が迎えるブルークリスマス

こんばんは
アメリカでホリデイショッピングシーズンの幕開けを告げるサンクズギビング(感謝祭)は、毎年11月の第4木曜日となっています。今年は11月25日ですから、もう約1ヵ月後に迫ってきたわけです。

難問が山積しているアメリカの

ホリデイショッピングシーズン

我々日本人は、アメリカのショッピングシーズンというとクリスマスがいちばん賑やかだろうと思いがちです。

でも、じつはクリスチャンの中でも、クリスマスはアメリカでは少数派のカトリックの人たちが盛大に祝うお祭りで、多数派を占めるプロテスタントにとっては感謝祭のほうが大事だと言う人も多いようです。

宗派に関係なく、アメリカで小売業や個人向けサービス業を営んでいる人たちにとっては、感謝祭こそ翌年の正月元日、ニューイヤーズデイまでほぼ40日間続くホリデイシーズンの幕開けです。

アメリカの小売業界には、感謝祭パレードが終わるまではクリスマスムードを煽るような宣伝をしてはいけないという不文律があるからです。

そこで、公式の休日ではありませんが、感謝祭の翌日は「ブラック・フライデイ」と言って、この日からクリスマス商戦が始まる日としての景気づけに、ふだんはめったに安売りをしない商品を大幅に値下げして店中身動きの取れないほどお客さんを集める小売店もあります

なぜ「ブラック」なのかと聞くと、車道も歩道も一杯に渋滞する混雑ぶりを表現しているからだという日本流に言えば「黒山の人だかり」説と、あまり繁盛していない店では年間通算の損益がこのころやっと赤字から黒字に転換するからだという説があります。

いすれにしても、本来であれば一年中でいちばん華やいだ季節になるはずの時期です。

ところが、国際金融危機が底打ちをした2009年以降、どうもこの「ブラックフライデイ」について祝祭気分とはほど遠いニュースを見かけることが多くなりました。

破格の安値になる商品をいちばん乗りで買おうとする人たちが徹夜で店の前に行列をつくる程度までは、ちょっとわびしいなとは思っても気が滅入るというほどのこともありません。

しかし、同じ商品をどちらが先に取ったかをめぐって口論どころか、殴り合いや、ときには家族同士での乱闘に発展することまであると、これは当事者だけではなく巻き添えをくった人たちまで、せっかくのお祭り気分が台無しです。

ちょうどこのころから、アマゾンを始めとするeコマースの無店舗販売が実売店の低迷を尻目にどんどん売上を伸ばしていきました。

「スマートフォンやPCでワンクリックするだけで商品が届く利便性が受けた」というのが通説です。

ですが、私はアメリカのホリデイシーズンの店頭風景があまりにも殺伐とした雰囲気になってしまって、わざわざ店に買いものに行く気になれない人が増えたのが最大の理由だと思っています。

そのわびしいホリデイシーズンが
今年は去年よりさらに惨めになる?

去年の今ごろは、新型コロナ騒動でロックダウンをしていた都市も多く、前年の2019年に比べて小売店の売上もレストランやバーの来客数も大きく落ちこんだのは、皆さんご存じの通りです。

しかし、明らかに去年に比べればコロナは下火になっているにもかかわらず、今年のホリデイ商戦は、去年以上にきびしいものになるかもしれません

まず、アメリカ最大の輸入基地であるロサンゼルス・ロングビーチでコンテナ船が大量に荷揚げもできずに滞留していて、満足にホリデイギフトの品揃えができない小売店が激増するかもしれないのです。


青で示した接岸中というのは、とにかく埠頭に接した位置までは行き着いて荷揚げを待っている状態のことです。

また、赤で示した碇泊中または待機中というのは、そこまで行くこともできず沖合で順番待ちをしているコンテナ船のことです。

このグラフは10月第2週分のデータまでが収録されているのですが、第3週にはついに総数が103隻という史上最多になったとのことです。

私は、中国とカリフォルニア州で「再生可能エネルギー源」への急傾斜によって電力ばかりか、あらゆる用途のエネルギーが不足したことが最大の理由だと思っていました。

どうもそれだけではないようです。この南カリフォルニア2大港湾施設は、コンテナ船に積んであるコンテナを大量に陸揚げする装置は、完全に自動化されているそうです。


ご覧のとおり、レールに乗って海上にもせり出して行って、コンテナ船の上に縦6段、横9列に並べたコンテナを一度に抱えこんで陸揚げすることのできるクレーンがスピーディに荷揚げ作業をやってのけます。

ところが、コンテナヤードに積まれたコンテナを送り先別に仕分けしてトラックに積み込む作業はほとんど自動化されていません

だから、今回のような大騒ぎにはならなくても、両港ではひんぱんにトラックへの積み込み作業がボトルネックになっていたとのことです。

やっと労使の交渉が成立して、少なくとも今年末までは休日なしの24時間操業でヤードに置きっ放しのコンテナをトラックに積み込む作業をすることになったそうです。

しかし、ホリデイ商戦のために輸入しておいたはずの商品が、年内に届くかどうかはかなり疑問です。

それどころではありません。アメリカ中のごくふつうのスーパーなどで、食料品その他の日常買い回り品が在庫払底で、陳列棚はガラ空きという事態がひんぱんに発生しています。


こう品物が少なくては寒々としすぎてますます客が寄りつかなくなるということで、とにかく在庫のある商品をべたべた並べている店もあるようです。


「これじゃあまるでウチの製品はまったく売れていないみたいじゃないか」とメーカーに怒鳴りこまれそうな風景ですね。

ついに日常の買いものにまで
露骨に表れた貧富の格差

こうした品不足の背景には、大衆向けの低価格商品は薄利多売でやっていかなければならないので、どうしても在庫管理や仕入れ計画がずさんになり、当然あるはずの商品が品切れになるまで補充されないといった小売業界の努力不足も関係しているのではないでしょうか。

去年11月の大統領選で当選したジョー・バイデンは、全米世帯の持つ「余裕資金」を2兆ドルを上回る金額にするという華々しいプランをぶち上げました。

ただ、その余裕資金の配分もまた、金融資産の増加率ほど極端ではないにしても、大きく富裕層に偏ったものになっています。


去年の3月までは「余裕」現預金、つまりとくに使途の決まっていない手元現預金の額には資産階層別の差はほとんどありませんでした

ところが、今年の3月には上から20%の世帯で全余裕資金の3分の2を占め、残る80%の世帯でたった3分の1を分け合うという構図になってしまいました。

当然のことながら、今年のホリデイシーズンの買いもの予算も上から20%の世帯では去年の15%増しの約2600ドル(30万円弱)となるのに、下から20%世帯では消費全体が非常に弱かった去年の水準からさらに22%減の約540ドル(6万円強)と、上の20%の5分の1に過ぎません。

さらに、そのつつましい買いものもどうやらクレジットカードに依存したものになりそうです。


なお、比較対象が前年同期ではなく前々年同期となっているのは、前年である2020年が消費の激減した特異な年だったので、その水準との比較にはあまり意味がないからです。

デビットカードとは、自分の口座から「これだけは買いもので使う」と決めた金額を入れておくプリペイドカード的な決済なので、安全です。

一方、クレジットカード支払いは月内に決済できなければどんどん高利の延滞料がかかる危険な買いものになります。

年収5万ドル未満の世帯でも失業給付や生活保護にコロナ対策割り増しが付きはじめたころはデビットカードでの支払いが激増したのですが、最近では危険なクレジットカード決済が増えています

こうしたきびしい環境を反映して、今年は「ホリデイシーズンに何も買いものをしない」という世帯が、去年の全世帯中の4.9%から、倍増を上回る11.5%に達しました

この数字は、アメリカが大衆消費社会に突入したと言われた1960年代以降ではほぼ確実に最悪の数字でしょう。

アメリカはソ連の轍を踏むのか?

次の2枚組写真をご覧ください。


1950年のソ連は、核兵器開発でアメリカに追いつきつつあり、やがてスプートニクによる有人宇宙旅行ではアメリカに先駆けて人類初の快挙を成し遂げる、そういう上り坂の時期にありました。

お客さんたちの服装は質素ですが、陳列棚には豊富な食料品が並んでいて活気が感じられます。

一方、1990年にはもうソ連東欧圏の崩壊は始まっていました

陳列棚にほとんど何もないこと以上に驚かされるのは、客がひとりもいない様子なのにそれが異常事態という印象もないことです。

アメリカ社会も、あまりにも庶民をないがしろにした経済政策を続けていると、やがてソ連と同じ末路をたどることになるのではないでしょうか。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

土井としき さんの投稿…
消費資本主義の時代に、

>満足にホリデイギフトの品揃えができない小売店が激増する

>品不足の背景には、大衆向けの低価格商品は薄利多売でやっていかなければならないので、どうしても在庫管理や仕入れ計画がずさんになり、当然あるはずの商品が品切れになるまで補充されないといった小売業界の努力不足も関係しているのではないでしょうか。

>去年11月の大統領選で当選したジョー・バイデンは、全米世帯の持つ「余裕資金」を2兆ドルを上回る金額にする

>アメリカ社会も、あまりにも庶民をないがしろにした経済政策を続けていると、やがてソ連と同じ末路をたどることになる

ことがわかりました。本当に呆れました。

日本の成長がないという、エリートの指摘がウソ臭いことが、明らかされていますね。政府の政策に関わらず、日本は庶民の自立が支えている事実が重要ですね。

我が身は、年金だけで生活する貧困家庭ですが、それでもアメリカのような暗さはありません。おまけに、歩いて10分に住む息子に支えられている事実に、かの国との差を大いに感じます。
匿名 さんのコメント…
コンテナの滞貨を見事なグラフでありがとうございます。

状況は違いますが、英国でもスーパーマーケットの棚が、空いている様です。

幸いに、日本ではまだですが、これは是非欲しいと思う商品が棚に無かったりすると、自由貿易は空虚を商いする事では? との、疑問を感じてしまいます。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
アメリカの貧富の格差は拡大する一方で、経済成長の恩恵のほとんどが資産規模で上から20%の人たちにしか行きわたらない国になっています。
中間層でさえ、年金を確定拠出型にしてしまった人たちは、リーマンショック以後のへこみを挽回できないケースのほうが多いようですし。ましてや年金とも健康保険とも縁のない人たちが大勢いるのですから、ほんとうに大変です。
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
本来の意味での自由貿易ができれば、けっして悪い制度ではないのですが。
現実には、米中というGDPで1位、2位の国がそれぞれ利権で動き政治権力を握った連中と大金持ちばかりがやりたい放題をする自由を持ち、庶民にはそのやりたい放題を受け入れる「自由」しかない国になっているのですから、異常な事態ばかり続々起きているわけです。
まお、おほめいただいたグラフをアップデートしておきましたので、ぜひツィート、@etsusukemasuda2をご覧ください。
カリフォルニア州の法律がおかしいことも書いておきました。