たった400人の超大富豪への富の集中は、棚からぼた餅か?

こんばんは
今日は、なぜアメリカの貧富の格差が開きつづけるのかについて書きます。

たった400人の超大富豪への
富の集中は偶然ではない

まず、次のグラフをご覧ください。


アメリカの貧富の格差は、とんでもない水準に達しています。総世帯数が約1億3000万世帯というのに、その中のたった400世帯の大富豪の持っている金融資産がアメリカ中の金融資産の20%近くに達しているのです。

1億3000万世帯中の400世帯というと0.00025%と、電子顕微鏡でも使わなければ確認できないのではないかと思えるほど小さな数です。

それほど少数の家族に、全国民の金融資産の20%近くが集中しているのです。

しかも、ハイテク・バブルの膨張と崩壊、サブプライムローン・バブルの膨張と崩壊、そして膨張しっぱなしの量的緩和バルの時期を通じて、トップ400世帯の持つ株式の株式時価総額に占めるシェアは拡大しつづけています。

これは「棚からぼた餅」と呼べぶべき偶発的な現象でしょうか?

金融資産に対する実物資産の相対価格が
史上最低記録を更新しつづけている

私は絶対そうではなく、連邦準備制度をはじめとする世界中の中央銀行、政府が意図的に仕組んだことだと思います。その理由は次の3枚のグラフに表れています。


まず、1990年代以降、ほんとうに世界経済が順調に高い成長を維持していた時期はほとんどありません。

とくに、消費者の需要がどんどんモノ(工業製品や農林水産・鉱業商品)からコト(サービス)に移行していく中で、大型投資をすれば急成長が見こめるような製造業部門はほとんどなくなりました

その中で、世界の主要な中央銀行はサブプライムローン・バブルが崩壊した2007~09年ごろから延々と量的緩和政策を続けています。

量的緩和とは、中央銀行が増刷した紙幣で金融機関の持っている債券などの金融商品を買い上げてやることで、金融市場で流通している資金の量を直接増やすことです。

そうやって増やした資金が高収益の見込める大型投資に向かってくれればいいのですが、実際にはもうそういう時代は過ぎ去っています。

めぼしい実物投資のあてが見当たらない金融業者たちは、増えた資金を株や債券などの金融資産の価格を吊り上げることに使っています

全体として、実際に消費者が買い入れるモノの値段はほとんど上がらず、金融商品ばかりが値上がりするので、実物資産の金融資産に対する相対価格は極限まで低下しているわけです。

金融資産全体がほぼ均等に潤っているわけではありません。とくに価格上昇が激しいのは、債券ではなく株式です

アメリカの家計金融資産に占める株式の比率は、20世紀末まで一度も30%を超えたことがなかったのですが、2021年4月ついに40%を突破しました。


金融資産に占める株のシェアが上昇するほど得をするのは金持ちであり、損をするのは中層以下の世帯です。

発行体が破綻しないかぎり元本は戻ってくる債券と違って、株は完全に紙くずになることもあります。

だから、元も子もなくさないようにするには、ある程度の数の銘柄に分散投資をする必要があります。しかし、少額の資金でバランスの良い分散投資をすることはほぼ不可能です。

というわけで、株は資産規模が大きな世帯ほど金融資産全体に占める比率が高く、資産規模の小さな世帯ではほとんど無視できるくらいに小さなシェアにしかならないのです。


まずご注目いただきたいのは、トップ1%世帯とボトム50%世帯の資産総額です。

トップ1%は35兆ドルと、ボトム50%の7兆ドルの5倍の資産を持っています。1世帯当たりの比較なら、トップ1%世帯はボトム50%の中の1世帯の250倍の資産を持っているわけです。

そして、トップ1%世帯は全資産の61%を株で持っているのに対して、ボトム50%は全資産のたった4%しか株で持っていません

投資が冷えこんだ経済環境で、量的緩和という名の金融業界に対する現金ばら撒きをするのは、金持ちをますます豊かに、そして貧しい人たちをますます貧しくする、とんでもない愚策だということがお分かりいただけたと思います。

世界各国の中央銀行が愚策にこだわる
のは、彼らが愚鈍だからではない

中央銀行の幹部職員たちは、みなさん頭脳明晰な人たちです。

「景気を良くしよう」という善意から量的緩和をやってみてもなかなか実体経済は浮揚せず、金融業界ばかりが好況を謳歌しているなどという事態が、かれこれ10年以上もの長期にわたって続くはずはありません。

ほんとうに失敗したと思ったら、何か別の手を打つか、少なくとも量的緩和政策は打ち切っていたはずです。

にもかかわらず、表面的には投資偏重で高度成長が期待できていた時代なら有効だったかもしれない金融政策をずるずる推進しつづけているのは、いったいなぜでしょうか。

私は、彼らはもう、基幹産業の寡占企業が巨額投資で景気を牽引し、そのための資金調達を手伝う金融業界にもたっぷり利益が回ってくる時代は過ぎ去ったと知っているからだろうと思います。

その証拠は、一方で金融市場への現金注入という製造業全盛期の景気振興策を取りながら、もう一方では大手企業が軒並み自社株買いという正真正銘の企業規模縮小政策を取ることを容認していることです。

自社株買いとは企業が自社の株を株主から買い取って、発行済み株式総数を減らす以外にはなんの意味もない行為です。

自社の株主から現金で買い取った株は消却、つまり廃棄してしまいます。経営規模を拡大するわけでもなく、新製品や新工法を開発するわけでもなく、発行済み株数を減らすだけのために、企業から株主へと現金をばら撒いているわけです。

現在、アメリカの企業は大手花形企業になるほど、自社の利益を蓄積した内部留保ばかりか、借金までして自社株買いをしています。


このグラフで紹介された自社株買い総額トップ10社は、昨日ツイートでもお知らせした単一銘柄時価総額トップ10と非常に重複が多いことにお気づきになるでしょう。


昔は、自社株買いは業績もよく、財務体質もしっかりしているのにあまりにも株価が低いと思った企業が、「うちの株は自分で買いたくなるほど割安ですよ」という宣伝効果を狙ってやることでした。

ところが、昨今は花形企業で株価もどちらかと言えば割高になってしまっている会社が、さらに自社株買いをするともっと株価が上がるという、珍妙な世界になっています。


ご覧のとおり、2014年ごろまではS&P500株価指数採用銘柄全体の自社株買いに占めるトップ10社の比率は微々たるものでした。ですが、2020年以降はほぼ一貫して4~5割の高率となっています。

もし、花形企業が自社の業績の先行きに自信を持っていたら、こんなに無意味なことに大金を使うでしょうか?

それ以上に、株主たちは「そんなことにムダなカネを遣わず、将来の成長のための投資に回せ」と怒らないでしょうか?

実際には、自社株買いをすればするほど株価は上がります。これはもう、大株主たちも自分が株を持っている企業の将来を悲観していて、まだ高いうちに買い取り保証のついた価格で売り抜けるチャンスが欲しいと思っている証拠ではないでしょうか。

21世紀に入ってからの3つのバブルは
どんどん品質が低下していた

21世紀に入ってから立て続けに2回崩壊したバブルと、現在もまだ膨張中のバブルを見ていて、とても気がかりになることがあります。

それは、バブルを膨らませる原動力が、どんどん退嬰的で歪んだものになっていることです。

2000~02年に崩壊したハイテク・バブルは、情報通信産業の成長が画期的な新しい世界、今まで不可能と思われていたことがかんたんに実現する世界を出現させるという、とても楽観的な見通しがもたらしたバブルでした。

これがアメリカ国内ではサブプライムローン・バブル、世界的には国際金融危機と呼ばれたバブル崩壊期の2007~09年には、かなりすさんだものに変わっていました。

本来であれば、とうてい住宅ローンを組むことができそうもない人たちに、「あなたたちも金融技術の発達のおかげでローンで家を買えることになりました」と言って、無理な返済計画のローンで家を買わせていたのです。

あまりにもずさんな事業拡大をした金融機関には破綻企業も出ました。ですが、借り手になんとか家を手放さないようにと無理な返済をさせ続けた上で、結局担保物件の差し押さえにいたる過程で、金融業界全体としては損にはならないというかなり悪辣なバブルでした。

現在膨張中の量的緩和バブルは、当初7~8年は金融業界のあいだでもほとんど手放しでほめる人のいない、批判の多いバブルでした。

やけっぱちのように金融市場にじゃぶじゃぶ現金をばら撒いても、金融商品が値上がりするだけで、ほとんど実体経済を改善する兆しさえ見えなかったからです。

この不人気なバブルが様変わりしたのは、新型コロナウイルスに対する恐怖宣伝が功を奏してからのことです。

各国政府・金融当局・大企業は
恐怖宣伝という金脈を掘り当てた

最初のグラフでもご覧いただいたように、2019年半ばから2021年5月までの2年弱で資産規模トップ400世帯が達成した資産増は、前代未聞と言ってもいいでしょう。

ウェブ版『フォーブス』誌の2021年10月5日号には、コロナ禍の中で、トップ400世帯の純資産は40%、実額で4兆5000億ドル増加したとの報道が出ています。

象徴的なのは、新興情報通信企業の創業CEOや創業時からの大株主でこのトップ400世帯に入る人たちが大勢出てきた一方、これまでずっとトップ400世帯に入っていたドナルド・トランプ前大統領がこのリストから外れたことです。

トランプ氏にはさまざまな批判もありますが、世界主要国の政治的指導者の中で「新型コロナはマスメディアが騒ぎ立てるほどの大疫病ではない」との主張を曲げなかった、かなり少数派に属する人です。

フェイスブック、ツィッター、インスタグラム、リンクトインなどが、相次いで新型コロナウイルス大疫病説に懐疑的な投稿や、ワクチンの有効性を批判する投稿を削除したり、そうした投稿を載せるサイトを封鎖したりしたことが話題になっています。

「なぜ、世間的には良識派の典型のように言われている民主党リベラル派を支持している新興ハイテク企業の経営者たちが、露骨な言論弾圧をするのだろう?」と疑問に思われるのはもっともです。

でも、新型コロナをめぐるロックダウンなどによって、消費動向は明らかになま身の人間が大勢集まるところでなければ繁盛しない中小零細サービス業から、自宅にこもって通信媒体でやり取りができる業態へと強制的に移転させられたのです。

それがいかに新興ハイテク企業の業績を向上させたか、そしてこうした企業の株価を上昇させたかを考えれば、この恐怖宣伝を批判する論調を弾圧しようとするのは、企業として当然の行動でしょう。

もうひとつ見逃せない事実があります。

それは、コヴィッド-19騒動の中で、「おとなしく政府や国連機関やその道の権威の言うことを聞いていれば無事に生きていけるけれども、逆らえば大変なことになる」という宣伝が大成功したために、かなり脅しの効果が薄れていた恐怖宣伝まで息を吹き返してしまったことです。

「人為的二酸化炭素排出量の拡大→地球温暖化→人類のみならずあらゆる動植物にとっての環境劣化」は、その典型でしょう。

「気候変動に関する政府間パネル」が発表した地球温暖化に関する論文が、中世温暖期というまっとうな気候学者ならだれもが認めている歴史的事実を強引におおい隠した捏造論文だったことがバレてから、温暖化危機説を唱える人たちの信用はかなり落ちていました。

ところが、「おとなしく偉い人の言うことを聞いておかないとひどい目に遭うぞ」という宣伝はこの手の怪しげな「学説」まで復活させてしまったのです。

その事実を象徴するのが、「一度として自分で公約した業績目標を達成したことのない大ぼら吹きの経営する企業」として株式市場から見放されつつあったテスラ社が、コロナ禍の中で株価上昇率第1位となり、創業CEOであるイーロン・マスク氏もトップ400世帯の代表格にのし上がったことでしょう。


テスラ株の場合、コロナ騒動勃発以来、今年年初の史上最高値までの上昇があまりにもハイペースだったため、まだそのときの高値を抜いていません。でも、この1~2週間の株価を見ると史上最高値を更新するのは時間の問題でしょう。

じつは、自社が製造する電気自動車(EV)の販売では一度として営業黒字を出したことがなく、EV1台を売るごとにもらえるガソリンエンジン車販売権を他の自動車会社に売りつけることで細々と利益を出しているボロ会社なのですが。

アップルの場合、ハイテク大手企業間では老舗という余裕のためか、今までのところコロナや地球温暖化に関する露骨な言論弾圧はしていないようです。

ところが、この会社は自社株買いに関するかぎり過去5年間の累計額が3341億ドルと、2位オラクルの938億ドルに約3.5倍の大差をつけた断トツ首位企業なのです。

さらに、株式市場の評価で見るかぎりハイテク大手の中でも突出しているのが、マイクロソフトです。


ご覧のとおり、マイクロソフトは2016年まではまったく鳴かず、飛ばずで退屈きわまりない株価推移に甘んじていた企業でした。

ところが、2019年にビル・ゲイツの肝いりでジョンズ・ホプキンズ大学主催の「イベント201 大疫病机上演習」なる催しを実行したころから急速に株価が動意づきました

そして、2020年年初からだけでもすでに2倍の307ドルまで上昇しています

いったいいつまで、ほんの一握りの大富豪が恐怖宣伝で大衆を引きずり回して儲ける世の中が続くのでしょうか

先進諸国の大衆は、いつになったらこの茶番劇に「No!」を突き付けるのでしょうか。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

土井としき さんの投稿…
[総世帯数が約1億3000万世帯というのに、その中のたった400世帯の大富豪の持っている金融資産がアメリカ中の金融資産の20%近くに達している]

これが、ワイロ合法化され、金融資産が自社株を買いで成り立っている事実。

しかし、日本の大衆(庶民)がエリートの指示表出から逃れている事実。つまり、自然性を安藤昌益が大事にしているように獲得している事実。今後も大事にしていほしいものです。
匿名 さんのコメント…
本日、また米国株式が取引時間中に一時最高値を突破したという、ニュースを朝聞き
米国経済は緩やかに成長しているなどというコメントを見て、「なにをいってるんだ」
といら立ちを覚え、会社の事務所に着きいつも いの一番で見る増田さんのブログを見ると
超格差社会を許し続けている米国の腐りきった実態、今のコロナ禍騒動の真相がこれでもか
と述べられていて、言葉は変ですが感動してしまいました。
今回の衆院選では投票先が無く困っています。今日のブログのような街頭演説をやってくれる(無理だと思いますが。)党首が登場し新党でも作ったら、そこに投票したいという人が潜在的にいっぱいいると思います。
 テレビの経済番組を見ては憤慨し、すぐその答え(反論)としての増田さんのブログを
見て心底スカッとする。この繰り返しがいつまで続くのかと思いますが、そう長くないうちに世界大暴落という形でケリがつくと思います。
   新著楽しみにしています。いつもすばらしい論文ありがとうございます。
YAMADA さんのコメント…
おはようございます!今日のブログも、また秀逸ですね。最近やっとグリーンエネルギーが最近のエネルギー高騰の原因と書いてる記事をみかけます。しかし、厳しく糾弾している人は皆無ですけど。冗談で言っていたガソリン一リットル200円、灯油18リットル2000円突破もかなりの確率で起こるような気がします。増田さんが書かれていたように、田舎では灯油を暖房に使うのでかなり厳しい事になりそうです。北の方に住んでる方には、命に係わる事ですから。暖冬であることを切に願っております。またガソリンが200円を越えれるとマスゴミががGSの前で”どう思われますか?”とか質問するんでしょうね?笑 自分たちの頭で考える事をしないのでしょうね?

この資本主義最後のバブル、どう終わるのでしょうかね?ここまで膨らませてしまったら、超絶悲惨な事になると思うのですが?アメリカみたいに株価頼みだと、株価が崩壊したら国が崩壊しますね?以前にゴールド一オンスとダウの株価が同額とかなると、一回世界はひっくり返る事でしょう。そこからまた新しい世界を作るんでしょうけど、そろそろ準備も必要かなとも感じます。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
日本の大衆の自然に寄り添う生き方もさることながら、どうしても欧米の大富豪のように悪辣になりきれない日本の中富豪、小富豪の皆さんの、無欲(?)、無策(?)ぶりも大事にしたいと思っております。
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様:
コメントありがとうございます。
私は政治家は悪いことをすることはあっても、良いことをしてくれる人たちではないと考えておりますので、日本の政治家の皆さんの徹底した無為無策ぶりを歓迎しております。
たまに欧米のように強引な指導力を発揮しようとする人間が出てきそうになっても出走前にゲートの中で落馬してくれるので、日本の政治家たちが今のアメリカや中国のようなひどい社会をつくり出す心配はないのではないでしょうか。
次の拙著では、非常に長い歴史的視点から、なぜ現在の世界的な混乱とそのあとに出現する世界では日本人が主役となるはずかを書いております。ご期待ください。
増田悦佐 さんの投稿…
YAMADA様:
コメントありがとうございます。
ダウ平均90%下落、金価格2倍でちょうどほぼ同額になりますね。
大いにありうる事態だと思っています。
「地球温暖化」危機を声高に叫び立てる人たちが増えるほど、自然はへそを曲げて、厳冬にしているような気がします。
昨年暮れから今年の3月までもかなりきびしい寒さが続きましたが、今年から来年にかけてもそうなりそうな兆候があります。
問題は、厳冬になったときいちばん困るのは地球温暖化を叫んでいる連中ではなくて、貧しい生活をしている人たちだということです。
いくらなんでも、世界はガラッとひっくり返らざるを得ないでしょう。
土井としき さんの投稿…
大衆の原像からの逸脱の限界が、やはり大事ですね。
増田さんの仕事ぶりがありがたいです。

日本の中小富豪の限界も大事ですね
土井としき さんの投稿…
精神病の診察は、診察しなくてもなおるものは治る。
患者の話しを聴いてくれても、治らないものは治らない。
自然であること、 医療にぎりぎりまで掛からないことが得策だ。健康の為の重要な秘訣だ。

医学の本質は、緊急医学であり、これと産科とげかと内科の一部くらいしか存在価値はないのではないか?
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
3通のコメントありがとうございます。
大衆の現像に迫るといった格好のいい話ではなく、蔵書の一部をトランクルームに入れていたのでは作業効率が悪すぎるので、自宅に置ける場所まで引っ越しただけです。
欧米富裕層の悪辣さを見るにつけ、日本の中小富豪のどこか抜けたところは貴重だと思います。
ほんとうに医者にはかからないで済めばそれがいちばんだと思いますが、なかなかそうはいきません。