ヨーロッパ・中国の暗くて寒い冬は100%人災です

こんばんは
このところ、ヨーロッパでは天然ガス価格、中国では燃料用石炭価格が急騰し、どちらも長期にわたる計画停電の必要性を真剣に検討しています。

今日は、この問題は「地球温暖化」のせいでも、ロシアのプーチン大統領の陰謀のせいでもなく、純然たる人災だという事実をご説明させていただきます。

イギリスの天然ガス先物
価格の驚異的な急騰ぶり

まず、イギリスの天然ガス価格が、どんなに世界中の天然ガス価格とはかけ離れた上昇を示しているかをご覧ください。


世界のジェネリック(産地や等級、期近か、もっと離れた決済期限のものかを区別しない天然ガス全体の先物価格とお考えください)価格も年初来で2倍強と、過去10年以上にわたって低迷が続いていた天然ガス価格としては、かなりの値上がりです。

しかし、イギリスの先物はすでに今年の年初で去年春の底値2ドル台から約5倍の10ドル台に乗せていたのに加えて、その後も5ドル台を割りこむことなく、なんと直近では30ドル近くまで暴騰しています

天然ガスの単位は英国熱量単位(BTU)というあまり皆さんにおなじみのないものの100万個分となっていて、どのくらい値上がりしたのかの実感も湧きにくいと思います。

そこで、もし原油1バレル当たりに直すといくらになるのかを算出して、原油の世界的な代表銘柄である西テキサス中質原油(West Texas Intermediate Crude Oil、WTI原油)と比較したのが、次のグラフです。


WTI原油のほうも、2020年春のマイナス37ドルは特殊要因があったとしても、去年の大半は50ドル未満で低迷していました

それが、去年11月のバイデン大統領当選以来、ほぼ一本調子で上げつづけ、直近では80ドルに迫る勢いを示しています。

この事実ひとつを取ってみても、「化石燃料全廃」を呼号する「再生可能エネルギー実用化」を推進する人たちは、じつは化石燃料の親玉ともいうべき石油産業にとって、敵ではなく味方なのだということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

さて、イギリスの天然ガス先物価格は、原油1バレル換算で164ドルと、あれほど急上昇したWTI原油価格の2倍を超える水準となっています。

この急騰の伏線は、じつは去年の年末から今年の春先に引かれていました。

自然条件に全面依存する太陽光
・風力発電は当てにならない

まず、大胆に太陽光発電を拡大していたドイツが厳寒で、太陽光発電量がほぼ全滅状態で、慌てて休眠させていた原油焚きや天然ガス焚きの火力発電所を稼働させなければなりませんでした。

さらに、アメリカ中でいちばん太陽光発電への傾斜が急だったカリフォルニア州では、去年の秋から今年中ずっと、太陽光発電量が期待を大幅に下回り、計画停電をくり返し、山火事になっても、消防ポンプ車が想定能力どおりに稼働できずに大火災になるという悲劇をくり返しています。

もっと痛ましいことに、アメリカではいちばん風力発電への取り組みが進んでいたテキサス州では、予想外の寒さで風力発電用の風車が凍結して発電量が激減し、数百名の凍死者が出るという停電事故が各地で頻発しました。

そもそも日照時間や風向・風力は人智をもってしてはまったくコントロールできない自然現象なので突発的に大きく変動するものです。

こんなに安定供給のむずかしいエネルギー資源に発電量の大半を依存しようとするのは、無責任どころか破滅的な方針です

これだけ有力な「再生可能エネルギー源」に対する不安要因が出ていたにもかかわらず、ヨーロッパ諸国は安定供給のできる天然ガス火力を削減し、再生可能エネルギー依存度を高める方針を維持しつづけました。


ご覧のとおり、今年の9月21日現在の天然ガス備蓄量は、過去10年間に前例がなかったほどの低水準にとどまり、貯蔵能力の4分の3にも達していなかったのです。

今年の夏も、地球温暖化論者たちの主張とは裏腹に、ヨーロッパの夏の日照時間は短めで、ヨーロッパとしてはめずらしい集中豪雨に見舞われる地域も多かったのです。

天候に左右されることなく安定して電力を供給できる天然ガスが引っ張りだこになり、おまけに備蓄は少なかったのですから、価格が上がるのは、当然すぎるほど当然のことです。

中国もまた、再生可能エネルギー
依存度を高める方針で大失敗

次のグラフをご覧ください。2000年と2020年を比べると、どこでどんなエネルギー源を使った発電量が伸びていたかが鮮明に表れています。


EU加盟の27ヵ国は、再生可能エネルギー源による発電能力を激増させて大失敗しましたが、中国もまた石炭火力と並んで再生可能エネルギー源による発電量を顕著に増やしていました

中国の石炭火力依存度の高さは、たしかに大問題です。次のグラフでご覧いただけるように世界GDPの約15%を占めるにすぎない中国が世界全体の二酸化炭素排出量の27%を吐き出しています。


二酸化炭素自体は、熱狂的な地球温暖化危機論者の唱えるような「悪玉」ではありません植物が二酸化炭素を光合成によって自分の体内に取りこみ、炭水化物を蓄積して動物の食料になってくれ、酸素を排出してくれなければ、動物は生きていけないからです。

それにしても、世界GDPの15%しか生み出していない中国が世界中の二酸化炭素の27%も吐き出しているのは困りものです。

しかも、次の写真でおわかりいただけるように、あまり脱硫装置や煤煙除去装置もきちっとしていなさそうな石炭火力発電所から、もくもく水蒸気に混じっていろいろ公害廃棄物まで撒き散らしています。


なお、この写真のキャプションでは、もし中国が突然石炭火力発電を大幅に削減してしまったら、クリスマスプレゼントのためのスマートフォンさえ買えなくなるというような「脅し」も書いてあります。

でも、実際には中国にはそこに頼まなければどうしても調達できない高性能の部品を製造しているような部品・中間財メーカーはほとんどありません

台湾が似たような状態になって台湾半導体が操業時間を短縮したら、世界中で半導体を使った製品を製造している企業は大混乱しますが。

とにかく、中国が石炭火力発電を大幅に削減しなければならないのは、間違いのない事実です。

実際には、石炭を石油に代えれば二酸化炭素排出量は3割程度削減できますし、天然ガスに代えれば半分以下にできます。中国として取るべき方針は供給の安定しない再生可能エネルギー発電に転換するより、石油焚き、天然ガス焚きの火力発電を増やすことだったと思います。

ところが、表面的には順調に貿易黒字を伸ばしているように見えて、じつは金融所得収支までふくめると経常収支が火の車の中国は「再生可能エネルギー源を使えば、エネルギー資源を輸入せずに国内の電力需要をまかなえる」という根拠のないウソに欺されてしまったようです。

その結果、再生可能エネルギー発電は大幅にキャパシティを増やしてもあまり発電量は伸びず、急に石油焚きや天然ガス焚きの火力発電所を増設しようとしても間に合わずという事態に陥りました。

そこで、石炭需要が激増し、石炭価格が暴騰しているのです。




ヨーロッパ諸国も中国も、需要に応えるだけの発電量を確保できずに、暗く寒い冬を迎えることでしょう。

それは、地球温暖化論者が言っているように気候が激変したからではありません。これは、再生可能エネルギーと称する天候次第でまったくあてにならない「エネルギー資源」への依存度を高めてしまった政策の失敗による人災です。

その陰で「しめしめ、これでだぶつき気味の原油も天然ガスも高く売れるぞ」とほくそ笑んでいるのは、世界中のオイル・資源メジャー各社です

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
 最初の再生可能エネルギー発電は発電量も僅かで、既存発電・送電システムにタダ乗り出来た訳ですが、発電量も増大し他の発電・送電並みにシステムに対する責任を負うべきところに来ている事が、一面的に天然ガス価格の高騰として吹き出してしまった結果と見ます。

 また、日本はスポットと比べると高いLNGを長期価格で確保をしている事も在りますが、金利と同じで、生産国とは言え長期間必要な物を安いからと言ってスポット価格に身を委ねたのは、不思議です。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様
コメントありがとうございます。
太陽光や風力に頼った発電では、現代文明が必要とする電力を安定供給することはできません。平均稼働率が10~20%で、天候次第では0%にも、30~40%にもなるが、決して50%を超えることがない状態は、こうした不安定なエネルギー源への依存度が高まるにつれて改善するのではなく、さらに悪化します。すでに太陽光がさんさんと降り注ぐ場所や風力・風向が比較的安定している場所は使い果たして、もっと条件の悪いところまで使わざるを得なくなっているからです。
超低温での液化にかなりエネルギーを浪費しているLNGより高額になっているヨーロッパ諸国の天然ガス価格は異常ですが、これは「再生可能エネルギー源があるから、もう貴国からの天然ガスは買わなくてもいい」などという傲慢な態度をとったための自業自得だと思います。
日本も、どうせ樺太(サハリン島)までは来ているロシアからの天然ガスパイプラインを宗谷海峡を越えて北海道まで延長してもらって、このパイプラインからの天然ガスと、LNGに価格競争をさせれば、安く安定したエネルギー源を確保できるはずです。