恒大集団のドル建て債がC格に格下げ

こんばんは
ついに、世界3大格付会社の一角をなすフィッチ社が、恒大集団およびその傘下各社のドル建て債をシングルC格に格下げしました。C格とは、すでに債務不履行が確定した企業だということを示すD格の一歩手前です

来るべきものが来た今回の格下げ

驚くべきは、日本ばかりか欧米でも、「中国は共産党の意向次第でなんでもできる国だから、今回も最後の土壇場で魔法のような救済策が出て、めでたし、めでたしで終わる」と唱えている人がいることぐらいです。

まず、香港市場に上場している恒大集団の株価と、同社のドル建て債の額面1ドル当たりの流通価格との動きの差をご覧ください。


一見、8月中旬ぐらいまでは同じように下げていたように見えます。

でも、株価は2ドル刻みで等間隔に表示していますが、ドル建て債価格は対数目盛りなのです。

つまり、株価が同じ金額で下げているとき、ドル建て債は同じ比率で下げていたわけです。もちろん、同じ比率で下げていると下がる金額の幅は徐々に小さくなります

ただ、中国政府が恒大集団から不動産物件や理財商品を買った個人になるべく負担がかからないように事態を収拾せよ」と命じたころから、株価はやや落ち着きを取り戻したのに、ドル建て債はむしろ下げ方がきつくなっています

もちろん、これは「たとえ恒大集団は救済されたとしても、ドル建て債所有者は元本がそっくり返ってくるというような幻想を持ってはいけない」という市場の警告です。

その後、中国政府は政府直轄だったり省政府や地方政府が筆頭株主となっている不動産会社に「用地だけが取得済みだったり、建設作業に取りかかっている恒大集団の物件を買ってやって、金策に協力するように」という指令も出しました。

国有不動産会社に恒大集団を

助ける余裕はない

たとえば、河南省の古都、洛陽に建設中の巨大高層住宅プロジェクト、エヴァーグランデ・オアシスなどは、ほかの不動産会社が飛びつきそうな物件ですが、おそらくぎりぎりの値切交渉で、これなら買って損はないというところまで値下げしなければ売れないでしょう。


世界中の不動産業者が舌なめずりしそうなプロジェクトもあります。次の写真は中国有数の強豪サッカーチーム、広州恒大の本拠地として建設中の、完成すればサッカー専用スタジアムとしては世界最大の収容人員となるはずのサッカー場の基礎工事現場です


この段階では、いかに広々としたスタジアムになるかしかわかりません。でも……


外観は満開の蓮の花をかたどり、……


中は自然採光なのに、雨が降っても観客のほとんどは濡れることもなく試合を見られるという理想的なサッカー場で、おまけに収容人員は10万人と、サッカー専用スタジアムでは世界最大となるはずでした

このプロジェクトには、深圳市政府が筆頭株主の不動産会社が食指を伸ばしているそうですが、これもまたきびしい値切り交渉となるでしょう。

思えば、今年6月22日にグループリーグが開幕したアジア・チャンピオン・リーグに登場した広州恒大は、イタリア有数の名将、リッピ監督も姿を見せず、遠征費も出場費も出なかったのか、レギュラー選手はひとりも帯同せず、とにかく公式戦に出られればそれで満足という若手だけの編成でした。

そのときすでに、恒大集団が現在陥っている苦境は予測しておかなければならなかったのかもしれません。

最大の問題は中国不動産市場全体の不振

次のグラフをご覧ください。


アメリカを代表する大企業で構成されたS&P500採用銘柄は大ざっぱに言えば5年強の営業利益で債務を完済できるけれども、中国の大手不動産会社20社は営業利益で債務を完済するのに9年近くかかるということです。

もちろん、用地取得から売上計上までの期間が長引く大プロジェクトになるほど、前の物件の資金回収できないうちに新しい物件のために債務を増やすことが多くなります

つまり、これは大集団1社の問題ではなく、中国不動産業界全体の問題であり、たまたま大集団はその中で最大の債務を抱えた不動産会社だったというだけのことなのです。

次に苦境に陥るのは中国銀行業界

そして、資金回収が債務の増加に追い付かない不動産会社が増えるほど、不動産を担保とした貸し付けの多い中国銀行業界も苦境に立たされることになります。


中国銀行業界全体として、総融資額の約3割が不動産向けです。

しかも、つい8年前の2013年までは不動産向け融資の総融資に占めるシェアは2割程度に収まっていたのです。

これは、事業活動そのものが担保になるような収益力の高い企業がいかに少ないか、そしてその少ない健全な企業がいかに減少しているかを示しています。

中国経済の全面破綻は秒読み段階に来ています。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

hiroyukiF さんの投稿…
立場上ということもあるのでしょうが、パウエル議長、黒田総裁は中国国内問題であり、破綻連鎖の影響は国外に及ばないと発言していますね。FTは山拓問題に近いとの記事を掲載しているようですが、その件もあって否定する声明になったのか?
増田悦佐 さんの投稿…
hiroyukiF様
コメントありがとうございます。
この問題について楽観論を述べる記事などをいろいろ読みましたが、ひとつとしてアメリカが莫大な借金の山から金利・配当収入を稼いでいられるのは、中国への投融資が今までは曲がりなりにも金利・配当を出しつづけてきたからです。ここが詰まったら、アメリカの経常収支は、借金で借金を返すサラ金地獄のようなものになる点まで考慮に入れた上で、なぜ大丈夫と言えるのかを説明したものはありません。やはり、中国だけではなく、アメリカ経済にも死期が迫っていると思います。
匿名 さんのコメント…
烏金を借りていた先が、返す金が無くなったとの理解でしょうか?

元はドルでは無いとの単純な話しで、香港の外貨準備を吸収した物を使い切ったと考えても良いでしょうか?

豪州産の石炭を輸入停止にしたのも、台湾産のパイナップルを輸入停止にしたのも、中国人のパスポート発行を停止したのも、同根の話しですか。

烏金は、最後は、返って来ない(返せなくなる)のは、自明の事ですが、金主はその覚悟が有っての事でしょうか。

当然、金主に金を貸していた金親にも負担がかかると思いますが、ベルサイユ条約様でなく、大英帝国流の解決をして、10~20年程度の期間で処理をするしか思いうかびません。

栴檀の葉
不動産鑑定士 髙橋雄三 さんのコメント…
2ヶ月ほど前からこのブログも含めて、増田発信を精読・精索しています。

よくここまで調べ上げ、今後の見通しを予測していると驚きをもって読んでいます。

なお、hiroyukiFさんの投稿で「FTは山拓問題に近い・・」とありますが、「北拓」の誤植ではないでしょうか。「山拓」は「山崎拓」氏の略称でしたが・・。
匿名 さんのコメント…
https://news.yahoo.co.jp/articles/8463780e324b54bf1f549721f71d184e342b3fb4

発電量に関するコメントを参照下さい。

栴檀の葉
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様
2通のコメント、ありがとうございます。
米中の金融関係については、仕組み的にむずかしい話はひとつもありません。
中国はアメリカを中心に世界各国への輸出で稼いだ米ドルを潤沢に持っています。ですが、そのほとんどをほぼ無利子の米国短期債で運用しています。国内に持ち帰ったら大半が既得権益団体への利権分配に回されてしまうからです。政府・共産党首脳陣もこの利権の輪の中にいるので、利権団体を根絶するなどということはできません。
また、国民が貯蓄したカネもほぼすべて国有銀行から国有企業への融資というかたちで利権団体に食い潰されています。
ですから、成長性の高い民間企業はドル建て債を発行したり、海外からの投資を導入したりして成長のための資金を調達しなければならないというだけの話で、その結果が対外資産は2兆ドル近い投融資超過でありながら、金融所得は支払い超過になっているのです。
アメリカの投資家は、ほかに資金源がないのだからまさかドル建て債の債務不履行はしないだろうと思い、中国側はほかに有望な投資先はないのだから何社か債務不履行が出たとしても中国に投資するしかないだろうと思っている中で、現実に恒大集団がドル建て債の債務不履行に陥ったわけです。意地の張り合いをしながら米中ともに経済大国の座から滑り落ちていく以外の道はないでしょう。

また、中国が石炭輸入を絞っているのは、太陽光発電や風力発電で安定した電力供給ができるという、いわゆる「グリーン派」の主張を愚かにも真に受けて、「これで脱硫装置とか、ばい煙除去装置とかの面倒な技術を導入しなくても公害の少ない社会にできる」と喜んで飛びついたのでしょう。自然科学に関する基礎的な知見が低すぎると思います。
ただ、石炭は世界中で持て余しものになっている資源ですから、高価格さえ受け入れれば、供給途絶が長引くことはないでしょう。また中国の電力供給不足が長引いたところで、世界的に個人消費支出に占める製品購入のシェアが下がっているので、あまり大きな問題にはならないと思います。
増田悦佐 さんの投稿…
高橋雄三様
過分なお褒めにあずかり、恐縮です。
たしかに一見したところバブル崩壊の最終局面で、北拓とも拓銀とも呼ばれていた北海道拓殖銀行が消滅したころの日本に似た情勢と思われる方も多いでしょう。当時、「地銀の中でも伝統と地元経済の掌握度で有数の拓銀が消えたら、北海道地方経済はいったいどうなってしまうのか」と真剣に憂慮されたものでした。
ところが、当時すでに拓銀を始めとする地銀の大部分が、大蔵省(現財務省)の「護送船団行政(いちばん航行速度の遅い船まで守ってやる金融行政)」にぶら下がり、さらに大蔵省はバブルの渦中でさえ欧米諸国に比べればずっと健全だった民間企業の成長力にぶら下がっていたので、拓銀が消えても北海道経済にほとんど影響は出ませんでした。
中国の経済環境はまったく違います。海外からの投融資でかろうじて成長のための資金を確保している民間企業が潰されていったら、政府・中国共産党・国有銀行・国有企業は国民の経済活動の成果を食い潰すだけの存在なのです。
北海道拓殖銀行の破綻が日本経済の底力を示したのとは対照的に、恒大集団の破綻は中国経済のもろさを示すことになるでしょう。
hiroyukiF さんの投稿…
コメントへの返信をありがとうございます。銀行は北拓ですが、あの時はなぜか山一證券も倒産しました。連鎖ではないとしても金融危機には広がりがあるという事であえて山拓と書きました。今や昔のことですが。
増田悦佐 さんの投稿…
hiroyukiF様
ご親切なご指摘、ありがとうございます。たしかに山一と拓銀をまとめて「山拓」問題と言っていましたね。
たしかにもうバブル崩壊の余震も収まったかと思ったころに、急成長して準大手の一角にのし上がっていた三洋証券の破綻をきっかけに、北海道拓殖銀行、山一証券と「潰れない」と思いこまれていた金融機関がバタバタと倒産しました。当時山一の「山」と拓殖の「拓」を取って、山拓問題と言われていたことも、すっかり忘れていました。
当時、金融機関勤めの末席を汚していた私のところにも、いろいろまことしやかなうわさが飛びこんできました。三洋証券が潰れてあわてて「次はどこか」と探しはじめた人に、「いや、四大証券は絶対潰れない。なぜかと言えば自民党の大派閥がそれぞれ資金捻出のための株価操作に使っているから、潰せないのだ。その証拠に前回の金融危機では、山一は当然潰れるはずだったのに、土壇場で日銀特融が入って助かったじゃないか」と解説してくれた人がいました。
と思っていたら山一が潰れると、たしか同じ人だったと思いますが「金融当局としては四大証券のどこより大きいどころか世界最大級のディーリングルームをつくってしまった成り上がり者の三洋は絶対つぶす気だった。だが、証券業界で三洋だけ潰すといかにも不自然だから、ついでに四大証券もひとつぐらいは潰しておこうということになって白羽の矢が立ったのが、前回本来であれば潰れるはずだった山一なのだ」とのご託宣でした。変わり身の早さにびっくりしたものです。