国有企業なら救われるが、民間企業は見殺しにされる中国経済の実態

こんばんは 
今日は、中国経済が末期症状を呈していることについて書きます。

中国4大「不良債権回収会社」の中でも最大の中国華融が、国有金融企業総動員の救済で生き延びそうだという事情についてはすでにご紹介しましたので、このブログ記事をご参照ください。

それに引き換え、純然たる民間企業である恒大集団の前途は真っ暗闇と言っても過言ではないでしょう。

世界最大の債務を抱える不動産会社、

恒大集団資産売却の惨状

恒大は、米ドルにして約3000億ドルの債務を抱え、「世界最大の借金をしょった不動産業者」と呼ばれています。

本業の不動産開発がうまくいかなくなってから、思い付きとしか言いようのない多角化戦略をとって、まさにドロ沼に入りこんでしまった企業です。

まず、最近になってとにかく借入金総額を圧縮するために慌てて本気で取り組み始めた資産売却でどの程度の金額を回収できたのかというところから、ご覧いただきましょう。


恒騰網絡集団というのは、今や世界最大のゲーム配信企業にのし上がったテンセント(中国名騰尋)にあやかったというか、そそっかしい人に間違えてもらえることを期待した社名のネットワーク企業として、恒大が設立した企業のようです。

ついでに、英語名のほうは昔サーファー・ファッションで一世を風靡したブランド、Hang Tenと激似のHeng Tengとしているところにも、なんとか他社と混同してもらって売上を拡大しようという涙ぐましい努力のあとが見えます。

この会社は、32億5000万香港ドルというちょっと半端な金額で売却できたところから見ても、それなりの経営実態があった会社のようです。

その下の3社については、語るも涙、聞くも涙の値切り交渉で「持ってけ、泥棒!」という値段まで下げてようやく売れたことが、売却価格の丸い数字にも露骨に出ています。

盛京銀行は、遼寧省瀋陽市の大手銀行ということですが、ウィキペディアに出ているホームページのURLをクリックしても「スペリングが正しいか、お確かめください」というエラーメッセージが出てしまうほど経営実態の存続に疑問のある銀行です。

次の深圳ハイ・アンド・ニュー・テクノロジーズは、てっきり2020年になってからドロ縄的に参入した電気自動車(EV)製造会社のことかと思っていました。

それにしても、参入初年度で9車種を市場に送り出して20万台を売り切り、2年目の2021年度以降は毎年100万台は売ると豪語していた企業にしては、いくらなんでも安すぎる売却価格だと不思議でした。

調べてみると、恒大のEV製造子会社は恒馳という名前で、まったく違う会社のようです。

ただ、いろいろ探してみたのですが、この「ハイ・アンド・ニュー・テクノロジーズ」という子会社、または関連会社がいったいどんな業容の会社なのかは、わからずじまいでした。結局は日本円にして170億円という売却額にふさわしい中身のない会社だったようです。

スプリング・ウォーターだけは読んで字のごとしで、コカコーラ、ペプシ級のソフトドリンク・ボトリング企業を目指して設立した会社のようです。

でも、まだ黒字転換できないうちに売却したので、おそらく投入した資金に比べればはるかにお安く売り払わざるを得なかったのでしょう。

最後の不動産案件・ノンコア資産計5件が、結局いちばん多くの資金を回収できた項目です。

しかし、ここには2015年に125億香港ドルで買った香港本社ビルを、156億香港ドルの売り出し価格より約3分の1低い105億香港ドル(約1490億円)で売り払った金額も含まれているのです。

というより、この「計5件」の売却総額の95%弱、資産売却で回収した総額の約55%は、香港本社ビルを捨て値で処分した金額だったわけです。

ドル建て社債の価格暴落は

当然に見えるが・・・・・・

これだけ切羽詰まった資産の切り売りをしても、財務体質の改善は遅々として進みません。

なんと言っても最大の問題点は、これだけ資産売却で借入金は圧縮しても、債務総額はほとんど同社の史上最高水準から下がっていないことでしょう。


ご覧のとおり、借入金総額は2020年第2四半期の約8000億元から直近の6000億元弱まで、かなり減っています

ところが、債務総額のほうは史上最高の2兆元に貼りついたままです。

その差はどこから出ているかというと、購入した土地や原材料や機械装置などの代金を手形で払っておきながらその手形を落とさず、売り手に手形のまま持ってもらっているといった姑息な手段を使っているわけです。

逆に言えば、この期におよんでもまだまだ事業拡大意欲は衰えていない、あっぱれな企業と評価することもできるでしょう。

ただ、手形を受け取った売り手のほうも、いつまでもおとなしく手形を抱えていてくれるとは限りません。

これだけ財務体質の悪化した企業の手形を持っていても全額回収の見込みはないと思えば、二束三文で手形回収業者に売り払うかもしれません。

かりそめにも大手企業の手形が激安で流通市場に出回ったりしたら企業としての信用にかかわるので、その企業はなんとか額面どおりで回収しようとするはずです。

でも、現在の恒大の財務状況からすると、手形が額面より安く流通していることをむしろ歓迎しているかもしれません。

既発ドル建て債はどれも大幅な額面割れ

というわけで、現在米ドル建て社債市場で流通している恒大の社債は、どれを取っても額面より大幅に割安の価格で取引されています


額面に対する利回りにもよりますが、大ざっぱに言えば現在の恒大ドル建て社債の価格は、それぞれ償還期限まで
恒大が存続する可能性を示していると言えるでしょう。

具体的には、2022年までなら約45%の存続可能性があるけれども、2025年まで存続する可能性は約33%に落ちるというわけです。

こんなどうしようもない会社のことをなぜあれこれ詮索するのかと思われる方もおいでかもしれません。

この企業の行く末をしっかり見定めなければいけない大きな理由があります

それは、純然たる民間企業である恒大と比べて、国有の4大「不良債権回収」企業は借金を積み重ねながらなんとも優雅に生き延びると債券市場が判断しているからです。

先日、国有大手金融業界総出で中国華融を救済するスキームが成立しました。華融は、20世紀末に中国の国有大手銀行救済のために設立された4大不良資産回収会社の中で最大の「資産」を保有している企業です。

本来、不良資産回収会社は対象企業の資産の中身や経営実態を厳格に査定して、なるべく安く不良資産を買い取って、他企業に転売するときには利益を出さなければ、商売にならないはずです。

ところが、最大手の華融を筆頭にこれら4社は、情実やワイロによってべら棒な高値で不良資産を引き取ったので、自分たちが不良資産の山になっているというとんでもない企業群なのです。

その「不良資産回収」大手4社のドル建て債の値動きを見ると、民間企業である恒大に比べて、いかに優遇されているかが、一目でわかります。


ご覧のとおり、中国華融の救済スキームが決定して以来、ドル建て社債市場は「不良資産回収大手4社にはほとんど破綻の危険はない」と見ています。

そもそも、不良債権のゴミ溜めとしか形容しようのないこうした企業群が、3%台から4%台半ばまでの低金利で永久債の発行を許されていること自体、中国経済全体がいかに「お国の威光」だよりの運営になっているかを示しています。

それに比べて、本業の不動産開発出資金がうまくいかなくなってからはやることなすこと裏目に出ているとは言うものの、恒大は民間からのし上がってきた大企業です。

不良資産のゴミ溜めでも国有なら手厚い支援があり、民間企業ならちょっと躓けば見捨てられるという待遇の差は、あまりにも露骨です。

ふり返って見れば、習近平が国家主席の任期を撤廃して永世国家主席に成り上がったのは、わずか3年前の2018年のことでした。

その後の習近平は、まさにタガが外れたようにやりたい放題をやっています。

学童から大学生まで、あらゆる年齢層の教育で「習近平思想の学習」を必須科目とするなどというのは、その典型でしょう。

これは、得意の絶頂というより、大帝国崩壊の前兆だと思います。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
ワイマール共和国とオーストリアの役回りを、中華人民共和国と大韓民国が引きそうですが?
hiroyukiF さんの投稿…
ソ連、大日本帝国の寿命が77年であることを考えると建国72年を超えた中共も厳しい時期を迎えている。フォースターニングによれば米国も80年周期で危機の時期が来ているようだし。世界的に変わり目の時期が来ているのかな?
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様
コメントありがとうございます。
中国は想像していた以上に、国内の政治・社会情勢が深刻なようで、浙江省の公式機関である「浙江省開発改革委員会」なる部署が「全面統制経済を導入することによって、市場を活性化させる」という支離滅裂なアドバルーンを9月1日付で公表しています。
党中央の指示でやらせておいて、うまくいけば全国展開、うまくいかなければ反党分子の妄動ということにする気なのでしょう。
韓国は良くも悪くも大勢に影響をおよぼす国ではなさそうです。
増田悦佐 さんの投稿…
hiroyukiF様
コメントありがとうございます。
アメリカのアフガニスタン撤退以来の混乱もすさまじいですが、中国はかなり切羽詰まっているようです。「浙江省開発改革委員会」が昨日発表したばかりの総合改革案を読むと、民間企業による事業展開や社債発行などの資金調達を全面監視することによって、企業家の力を解放し、投資を促進するといった論理矛盾丸出しの内容です。
たしかに、共産党一党独裁の中華人民共和国はそろそろ終末に近づいているのでしょう。
高橋雄三 さんのコメント…
10日ほど前に福島市の大型書店で「米中『利権超大国』の崩壊」を店頭で見つけ、2回通読しました。

中国の内実は利権(ワイロ)が支配するシステムであることもよく分りました。

先生の著作は22年前に大竹慎一氏との共著、ジパン戦記Ⅲ、不動産戦線、「地価は下る、日本は再生する」を購入し、精読したのが最初でした。

不動産鑑定士という仕事がら、我が国の不動産マーケットや地価の予測には時間と情報収集には力を注いできたつもりですが、中国の実情を、これほど具体的に分析した文献は初めて読みました。

このコラムも「恒大集団」について具体的な事実に基づいて分析していることに大きな驚きとともに敬意を表します。

「事実を並べて、道理を説」という立場を貫いて人生を送ってきたつもりですが、御著から「事実を深く分析して、予測をする」ということの大切さも学びました。

昨日注文した御著「やはり金だ」が宅急便で、たった今、届いたので、今晩読むことにします。楽しみです。

不動産鑑定士 高橋雄三
増田悦佐 さんの投稿…
高橋雄三様
コメント、また拙著のご愛読誠にありがとうございます!
恒大集団については、重大ニュースがありましたので、ブログに新しく投稿しました。
お暇なときにぜひのぞいてみてください。
また、不動産鑑定士をしていらっしゃるとのこと、昔証券アナリスト時代に不動産担当でしたので、なつかしく感じました。
業績予想は当たっても、株価がさっぱり当たらなかったのが、引退した理由なのですが、そのへんの事情は『投資はするな』に書いておきましたので、こちらもぜひ、ご興味があればお読みいただければと思います。