欧米大手メディアが「大本営発表」になってしまったわけ

こんにちは 
今日は、米軍が撤退を開始するやいなや、あまりにもあっさりアフガニスタン全土がタリバンに制圧されてしまった背景について考えてみたいと思います。

バイデン政権は、いずれはアフガニスタンの政権をタリバンに委譲するにしても、米軍撤収後、数ヶ月あるいは数週間、過去20年にわたってきびしい訓練をしてきたアフガニスタン軍の兵士や警察が国内の秩序を維持してくれるだろうと思っていたようです。

その思惑はみごとに外れ、米軍撤退が始まるやいなや、現職の大統領は乗用車4台に詰められるだけ現金を詰めこみ、それでも足りない分はヘリコプターに乗せて隣国に逃げこんだそうです

アフガニスタン中央銀行総裁も同様に他国に逃げながら、自分のことは棚に上げて、大統領以下の政治家たちの無責任さを非難しています。

こういう連中が指導的な立場にいたのですから、兵士や警察官があっさり任務を放棄してタリバン勢力に立ち向かわなかったのも当然でしょう。

これまでは「トランプ憎し」の一念から、かなり認知症が進んでいてとうてい責任ある地位で指導力を発揮できる精神状態ではないジョー・バイデン大統領を全面的に支持してきた大手メディアも、今ごろになって批判的な論調に変わってきました。

メディアの責任も重い

ですが、アフガニスタンで米軍やアメリカの傀儡政権がいかに嫌われているか、そしてどれほど多くの国民が「女性の地位や異教徒に対する寛容性などで問題はあるにしても、タリバンのほうがマシだ」と思っているかについて、まったくと言っていいほど報道してこなかった大手メディアの責任も重大だと思います。

この点について、約5年前にSwiss Policy Research(SPR)という民間研究団体が発表した大手通信社によるニュース情報源の寡占化に関する調査結果が、とてもおもしろい内容になっていますので、ご紹介します。

まず、2015~16年の世界情勢をふり返っておきましょう。

アメリカは、リビアのカダフィ政権を軍事力で倒したことに味をしめて、シリアの現アサド政権を倒すための空爆をくり返していました。また、同じようにアサド政権打倒を目指していたイスラム過激派集団、ISISに資金や兵器の援助をしていたことも、ほぼ確実です。

そして、ついにロシアがアサド政権擁護のためにISIS支配地域に空爆を開始したのが、2015年末でした

まず、その当時からロイター(英)、AP(米)、AFP(仏)の世界3大通信社は、ホワイトハウス(アメリカ大統領府)、CIA(中央情報局)、ペンタゴン(国防総省)から優先的に情報提供を受けるために、アメリカ政府に好意的な情報を新聞社、テレビ・ラジオ放送網に流していたことを、SPRは指摘します。その構造は下の模式図のとおりです。



通信社はいわば情報の卸売業者で、新聞・テレビは小売業者ですが、上の図は欧米大手マスコミのほとんどが、ごく限られた卸売業者から情報を仕入れていることを示しています。

次に、完全にドイツ語圏のドイツとオーストリア、ドイツ語を母語とする人口の多いスイスを地盤とした3大通信社をふくめると、西欧諸国の新聞で配信されているニュースの過半数が、これら6大通信社を情報源としていることが明らかにされます。




具体的にご説明しましょう。2015年10月には、ロシアが現政権擁護の空爆に踏み切ろうとしていました

その10月前半の15日間に、ドイツ・スイス・フランス・イギリス・オーストリア5ヵ国の計9紙で、シリア内戦について合わせて381の記事掲載されました。これを情報源別の内訳にすると、以下のとおりです。


それにしても驚くのは、さまざまな資料を入念に調べて記事にした「調査報道」がたったのひとつもなかったという事実です。

調査報道とは、たとえばニクソン大統領による政敵や政府機関の重要人物に対する組織的な盗聴活動を調べ上げて「ウォーターゲイト事件」の重要性を世に知らしめたワシントン・ポスト紙担当取材班の一連の記事のような報道です。

なお、ここで調査対象となった9紙別に、同じ内訳を示したのが、次のグラフです。


この9紙の顔ぶれを見ると、ドイツ語圏7紙、英語圏とフランス語圏が各1紙だけですから、あまりにもドイツ語圏偏重と感じられる方もいらっしゃるでしょう。

ですが、あとで取り上げますように、この調査は記事がどちら側に好意的か、あるいは中立かといったところまで踏みこんだ内容になっています。

短期間に膨大な量の記事を読んで、微妙なニュアンスまで理解して中立か、どちらかに好意的かまで判断するのは大変ですから、母語として読める新聞中心に調査しているのは、むしろ良心的なスタンスだと思います。

どちらにしても、英語圏・フランス語圏・ドイツ語圏だけで、イタリア語圏・スペイン語圏・日本語圏は眼中にないという印象です。

ただ、現代の「大本営発表」と化した世界3大通信社による大量宣伝に直接さらされていないのは、日本、イタリア、スペインの国民にとってむしろ幸福で有利なことかもしれません。

大手メディアだけではなく

SNSも大問題を抱えている

ウィキペディアは、今も全面的に読者からの寄付に頼って「公平・中立」の記事だけを載せている「タダで読める良心的な百科事典」を自称しています。

そのウィキペディアで「調査報道」の項目を読むと、「最近、新聞などで調査報道を見ることが少なくなった理由は、中立で客観的なスタンスを装いながらじつは特定の立場に有利な報道をすることが多いので、読者からの信頼を失ったからだ」と書いてあります。

政治・経済・社会問題に関して、納得のいく見方をしようといろいろな報道を読み比べる人たちの中に、調査報道に「中立で客観的な姿勢」を期待している人がいったい何人いるでしょうか。

少しでも真剣にこうした記事を読めば、中立で客観的な立場で書いている人などほとんどいないことはわかります。

それでも調査報道を重視する人が多いのは、できるだけ信頼性の高いデータによって自分の仮説を検証して、整合性のある説明ができている限り、書き手の思想的な立場には関係なくものを考えるための貴重な材料を与えてくれるからです。

調査報道に代わって増えてきたのは、外部から寄稿のやインタヴュー記事です。寄稿は、見開きで社説の反対側のページに載せるのでOpposite of Editorial、略してOp-Edと呼ばれます。

大手メディアが調査報道を載せなくなった理由は、中立性や客観性を尊重しているからではありません。

それは、Op-Edやインタヴューが、調査報道よりはるかに特定の立場に偏っていることでもわかります。先ほどと同じ9紙のOp-Edとインタヴュー記事の傾向を調べると、以下のとおりでした。



また、「シリア内戦でプロパガンダ(情報宣伝活動)をおこなっているのはどちらの陣営か」という視点からOp-Edやインタヴューを読むと、次のような驚くべき傾向が現れています。


アメリカ・NATO軍は、ずっと前からシリアで合法的に成立していた政権を倒すために空爆を続けていたわけです。

被害を受けるシリア国民に対して、どんなにこじつけでも「これはあなたたちのためにやっているんですよ」という宣伝活動をしていないわけがないでしょう。

それでも、その分野での権威とか情報通とか呼ばれる人たちが寄稿した記事は、「アメリカ・NATO軍も情報宣伝活動をしている」とさえ認めないものばかりだったわけです。

ウィキペディアでSwiss Policy Researchの項を読むと、陰謀説や虚偽報道をばら撒く危険な「研究機関」と書いてあります。

その理由は、新型コロナに対するウイルスの効能を疑問視したり、イヴェルメクチンは新型コロナに感染した人の治療に有効だといった「デマ」を垂れ流したりしているからだそうです。

気候変動問題がセンセーショナルに取り上げられるようになったころから、ウィキペディアもふくめて、フェイスブック、グーグル、ツイッターなどのSNSもまた、世界政治の奥の院(Deep State)の意向を忠実に反映する宣伝機関になり始めました。

SNSの多くが、去年からの新型コロナ騒動を絶好の機会ととらえて、ますます「無知な大衆」に「これは安全で信頼の置ける真実」、「これはデマ」とお教えくださるありがたい報道機関になり果ててしまったようです。

なぜアメリカはアフガニスタンに

こだわりつづけたのか?

アフガニスタンは、第一次世界大戦前から、帝政ロシアの南下政策と、大英帝国のインドから西への領土拡大策が真っ向から激突した因縁の国です。

この「グレートゲーム」は、結局どちらの勝利にもいたらず、帝政ロシアにとっても、大英帝国にとっても国力低下のきっかけとなりました。

1979年にはソ連軍がアフガニスタン内戦に介入し、これがソ連崩壊を招いたのは記憶に新しいところです。

この「大帝国の躓きの石」とでも呼ぶべき国に、なぜアメリカが首を突っこんだのか、以前から疑問に思っていました。

『The Automatic Earth』というウェブサイトの8月17日付のエントリーで、興味深い記事を見つけました。

アメリカ連邦政府中央情報局(CIA)は、昔からどうしても公式の予算には載せられないような出費の財源をアヘン、ヘロインなどの麻薬の密売に頼っていました。アヘンをさらに精製して純度を高めたのがヘロインです。

気候風土が適しているからなのか、ほかに好採算の産業がないからなのか、アフガニスタンはアヘンの原料となるケシの栽培では超大国なのだそうです。

ある推計では、アフガニスタンの公式GDPが約200億ドルなのに対して、ケシ栽培で得られる闇収入は66億ドルと、GDPの3分の1に達するそうです。

タリバンはケシの栽培を厳禁しています。そして、タリバン勢力が強くなったころから、CIAはケシ栽培の拠点をアフガニスタンからコロンビアに移していたとのことです。

米軍が介入して傀儡政権を造らせたころから、またケシ栽培の拠点がアフガニスタンに戻っていて、その利権を守るためにアメリカはタリバン政権の樹立を阻止してきた・・・・・・という内容の記事なのですが。

アメリカがほかに何ひとつメリットのなさそうなアフガニスタン支配にこだわっていたことを考えると、意外に真相を衝いているのかもしれません。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

Yamada さんのコメント…
面白い記事を何時もありがとうございます。
バイデンは会見しませんでしたが、タリバンはしてましたね。
その中で記者が”言論の自由はあるのか?”と訊いてました。
タリバンの広報官の答えが”それはFacebookに訊いてくれ”だったそうで!
揶揄されるとしても、イスラム原理主義者に言われるとは。
更にタリバンは”アフガンでのケシの栽培はなくなる”と言ったとか。
アメリカの大国としての威信も地に落ちたと感じました。
増田悦佐 さんの投稿…
Yamada様
コメントありがとうございます。
全土を掌握したタリバン戦士たちは、遊園地の乗り物に乗って、人生で初めての楽しさだとはしゃいでいたそうです。
ケシ栽培は絶対やらないとの断言と相まってタリバンの好感度は上がるでしょう。
一方、アメリカ政府の好感度は地に堕ちるでしょう。
つくづく興味深い時代に巡り合わせたものだと思います。