Stroadって何? 不思議なアメリカ英語 その2

こんばんは 
今日は、不思議なアメリカ英語シリーズの第2弾として、stroadという単語を取り上げようと思います。

まだふつうの英和辞書などには出ていないようですが、アメリカではあくまでもクルマで通り抜けやすい道路網を築きたがる都市計画家たちと、歩ける街並みを保存しようとする人たちがくり広げる論争の焦点となっていることばです。

郊外スプロール化を象徴する単語:
Street + Road = Stroad

歩ける街並みを維持し、拡大しようとする人たちが結成した民間団体Strong Townsが、2013年に提唱したのが、このstroadという新語です。

片側2車線以上の大きな通りで、ほぼ完全に歩行者は排除してしまっているわけではなく、一応道の両端に歩行者用のレーンはあるけれども、それだけにかえって歩行者が事故に巻きこまれることの多い道路のことを、stroadと言います。

どんなときに使われる単語なのか、実例をご覧いただきましょう。


右側の暗い画面が、おそらく投稿者がカーナビをそのままスクリーンショットにした地図でしょう。

「せっかくアラスカの大自然を楽しみに来たのに、道路ぞいに細長く続くショッピングモール(ストリップ・モール)やだだっ広い駐車場ばかりが並ぶ約40キロにおよぶストロードで、がっかりした」というコメントがついています。

この地図だけではわかりづらいので、左側にウィキペディアから転載した、地図を添えておきました。

州都アンカレッジから北東に約60キロのパーマーという小さな町を入り口として、マタヌースカ川とサシトゥナ川に挟まれた、東西南北とも約200キロはありそうな大渓谷地帯です。

山あり、谷あり、湖あり、清流あり、おまけに氷河まであるという、本来であれば風光明媚なところのはずです。

この投稿にはさっそくコメントがついて、「こんなに広い地域の地図だけで、道路沿いの風景写真がなければ、どこがどう醜悪なのかわからない」とか「アメリカの郊外ならどこだっておなじようなものさ」とか、どちらかと言えば最初の投稿者に批判的なコメントが多かったです。

でも、たぶんそれなりの費用と時間をかけてアラスカまで来てみたら、アメリカの郊外ならどこにでもある殺風景な郊外が広がっていたというのでは、投稿者の不満もわからないでもないと思います。

というのも、このマット・スー渓谷地帯は次の写真が示すとおりトレッキング愛好家には願ってもないような場所だからです。


もちろんクルマで入ることはできないでしょうが、こういう風景が延々と続いているとすれば、起伏の多い道を自転車で走破するのもきつそうです。

となると、たっぷり時間が取れて山歩きが大好きという「上級者」以外には不向きなところなのでしょうか。

すばらしい観光地なのは間違いないが・・・・・・


ただ、マット・スー渓谷は、とくに野外活動に熱心ではないごく一般的な観光客にも、探せばいろいろアトラクションを取りそろえているのです。



問題は、こういうアトラクションが広大な渓谷地帯のあちこちに点在しているので、効率よく見て歩き、おいしいものも飲み食いしようとすれば、クルマに頼らざるを得ないことです。

先ほどの地図には、鉄道路線も出ていますが、おそらく1日に2往復か3往復ぐらいしか運行していなくて、ほとんど実用性はないでしょう。

わざわざ遠くから出かけた人としては、仕方なく自動車で走れる道路を使って観光名所を探すと、「道路沿いに展開する景色は、どこにでもあるアメリカの郊外と変わらないじゃないか」というボヤキも出てくるわけです。

ここであらためて、アメリカ人にとってはどんな道がストリートで、どんな道がロードなのか、考えてみましょう。

<君住む街>はあっても、<君住む道路>はあり得ない

『マイ・フェア・レイディ』には、<On the Street Where You Live:君住むで>というミュージカルナンバーが出てきます。

もしこれがOn the Road Where You Liveというタイトルだったら、路上生活者の話になってしまいます。

最近、ロサンゼルスやオークランドなどカリフォルニアの町では、ほんとうに道路の歩道部分にテントを張って生活するホームレスの人たちも増えているので、冗談めかしていうことができない深刻な問題となっていますが。

つまり、ロードはあくまでも道路そのものであり、ストリートというと道を取り巻く界隈全体の雰囲気までふくめたことばなのです。

たとえば、ロックダウンが解除されてからも、なかなか人出が以前ほどに戻ってきていないのが心配ですが、ニューヨークのタイムズスクエア近辺などは、典型的なストリートでしょう。

もちろん、現代アメリカ社会ですから、ひんぱんにクルマは通ります。

でも、車道と歩道がしっかり分けられていて、しかもほとんど交差点ごとに歩行者が横断するための信号もついていますから、クルマはとうてい高速で通り抜けることはできません。

そうすると、この写真でもわかりますが、たとえ信号は片手を止まれと差し出したかたちの赤信号でも、歩行者は自分の判断で渡れると思ったら平気で渡ってしまいます。

道沿いの店舗は、だれかが計画的に配置したのではなく、商売になる店は続き、高い家賃を払えない店は撤退するというふうに、自然に効率的に形成されています。

自分が歩いている側だけではなく、気が向いたら車道を隔てた反対側の店にも入りやすい、つまり街歩きが楽しい環境です。

この写真に出ているタイムズスクエアは、世界最高の劇場が点在している、いわゆる「ブロードウェイ」の中心地ですから、とくに何を観ようかと決めずに出かけていって、その日の気分と窓口の混雑ぶりを見て観る出し物を決めるというぜいたくさえできます。

それでは、Roadのほうも見てみましょう。


これが、チェーン店の看板ばかりが目立つ、典型的な郊外のRoad:まさに道路です。

まん中の自転車に乗っている少年は、いったいなぜでこぼこ起伏の多そうな中央分離帯を走っているのか、気になりませんか?

私も、アメリカ生活を始めて日が浅かったころは、不思議でした。

でもだんだんわかってきました。

こういうほとんど歩行者や自転車に乗る人を排除したような道路で道の両端を走っているクルマには、運転に自信がなくてなるべく追い越していくクルマを避けてこわごわ走っている人たちが乗っていることが多いのです。

他のクルマばかりに気を取られていますから、そういう人の運転するクルマはひんぱんに多少の段差を越えて歩道に乗り上げたりします。

また、歩行者や自転車にまで注意が行き届かないことも多いでしょう。

というわけで、それならむしろ運転に自信のある人が多い追い越し車線に隣り合わせの道路のまん中を走ったほうが安全だという判断があるわけです。

問題は両極端の中間のストロード

Roadほど露骨に歩行者や自転車を排除する道にはそれなりの対処法がありますし、大都市中心部のStreetはもちろん歩行者優先です。

問題は、その中間のStroadなのです。

ストロードは、大都市でもやや都心部を外れたところにあり、また郊外でも比較的交通量の多いところにあります。

道路設計から言えば、歩道やそのすぐ内側の自転車用レーンも整備されています。

だから、歩行者も自転車に乗る人も、ロードに出たときのような心構えはせずに安心して歩道や自転車用レーンを使いがちです。

でも、運転に自信がない人はなるべく道の両端をこわごわ走るという心理に変わりはありません。

ですから、自動車と歩行者・自転車との人身事故は、大都市周辺部や郊外目抜き通りのストロードで起きることが多いのです。

これは、クルマ社会が続くかぎり解決のできない問題ではないでしょうか。

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