続落する中国株式市場――焦点は中国華融米ドル建て10年債

こんばんは
今日は、下げつづける中国株の現状と今後の展望について書きます。

去年のアメリカ大統領選とほぼ同じころ、史上最大の調達額になると予測されていたアリババ集団系列の消費者金融グループ、アント集団の新規上場が直前で中止に追いこまれました。

中国政府はネット系ハイテク企業の統制を強めてきた

その後もアリババ集団などが独占禁止法違反に対する巨額の課徴金を課されるなど、中国政府が急成長しているネット系ハイテク企業への統制を強めてきました。

その結果、ゲーム配信、SNSなどの大手、テンセント(騰訊)の株価は、ご覧のとおり直近の高値から過去5ヵ月間で4割を超える値下がりとなっています。


それにもまして中国政府がハイテク株への敵意をむき出しにしたのが、配車事業大手ディディ(漢字表記では滴滴出行)・グローバルが6月30日におこなったニューヨーク証券取引所(NYSE)での新規上場のときでした。

ディディに命令して、中国本土内のあらゆるネットサービス向けアプリ店に「自社のアプリを扱わないでくれ」と指示するように仕向けたのです。

NYSEに上場して2日目で16ドル40セントの高値を付けたディディ株は、その後1ヵ月も経たないうちに、8ドル4セントと最高値の半値を割りこんでしまいました。


どうやら、中国政府は新興ネット系企業がアメリカ金融市場で自由に新株発行増資や社債の発行をして、財務上の独立性を高めることを極度に警戒しているようです。

こうした事情を反映して、香港のハンセン・テクノロジー株指数も直近の高値から約半年の内に4割も下げています。


さらに投資家に恐怖を感じさせた予備校・
塾経営企業への「非営利事業化」命令

急成長を続けてきた企業が、政府の意向次第であっさり4~5割の株価下落を余儀なくされるとすれば、慎重な投資家は中国株への投資や、中国企業の発行する社債の購入を躊躇するでしょう。

この警戒心を一段と強めるような事件が起きました。

中国でも、日本、台湾、韓国などその他の東アジア諸国同様、一流大学への進学を目指す子どもたちに、公共教育では不足しがちな受験テクニックなどを教える予備校や進学塾の経営が伸びています。

こういう業態でもEdu-Tech(教育テクノロジー)企業と呼ぶところが、どんな業態の企業でも社名の末尾に.comを付ければ株価が上がるので「ドットコム・バブル」と呼ばれた1998~2000年ごろのアメリカ株市場を思い出させてくれますが。

昔の話はともかく、突然中国政府が「予備校や進学塾は金持ちの子弟と貧しい家の子弟のあいだの学歴格差を拡大するからよくない。これからは、全部非営利事業にして儲けを出さない経営に転換しなさい」という通達を出したのです。

明らかに最近、経済環境次第で子弟の学歴に差が出ていることに不満を持っている世帯に対する人気取り政策でしょう。

ですが、何度か拙著でも指摘していますが、中国の場合、都市戸籍を持っている都市住民、農村戸籍のまま都市に住んでいる「出稼ぎ農民(民工と言います)」、そして農村暮らしをつづけている農民のあいだにはすさまじい格差があります。

民工や農民の子弟に生まれた人たちのほとんどは、高学歴を得るための競争ではスタートラインにさえ付けないのが実情です。

そういう環境の中で、比較的恵まれた都市住民の中での学歴格差を「是正」するためと称して、小さいなりにひとつの産業として育ちつつあった予備校・進学塾業界を丸ごと潰してしまおうという政策は、あまりにも乱暴です。

エデュテック産業各社の株価は、この藪から棒の「非営利事業化」通達のあと、軒並み6~8割の株価暴落に見舞われています。


今まで好収益を上げることを目的として経営してきた企業が、いきなり「非営利事業になれ」と言われたら、わずか1ヵ月でこんなに急落してしまうのも無理はないと思います。

ここで改めて露呈したのは、中国は収益事業を政府の命令ひとつで非営利事業にすることもできる怖い国だという事実です。

ヘッジファンド大手の一角を占めるヘイマン・キャピタルの創業CEO、カイル・バスは、「中国がまっとうな監査もなく、政府統計も民間企業の財務諸表もいっさい信用できないことは昔からわかっていた。こんな危険な国の金融商品に顧客から預かったカネを注ぎこんでいた運用担当者は、損害賠償訴訟を起こされたら、勝ち目はないだろう」と主張しています。

正論と言うべきでしょう。

問題は今後、中国政府がますます新興民間企業をいじめ、国有企業を保護する政策を強めるのか、それとも従来のスタンスをくつがえして民間企業の成長を妨害せず、非効率な国有企業の整理に乗り出すかです。

8月17日の中国華融臨時株主総会に注目

追いつめられた焦りからますます傲慢に虚勢を張っている習近平政権には、長年にわたって続けてきた国有企業を通じた利権分配優先の国内金融政策を転換する余裕はないと思います。

ですが、その転換をやってのけて、今後2~3年のうちに中国経済を道連れにのたれ死にする ことを回避するチャンスも皆無ではありません。

しかも、今後約3週間のうちに中国政府がどちらを選んだのかはっきり見えてくるはずの日程がすでに組みこまれています。

今年3月31日に「期限どおりに財務諸表を提出できない」と発表してから株価も社債価格も低迷しつづけてきた中国華融が、7月1日に「8月17日に臨時株主総会を開催する」と発表しています。

中国最大の「不良債権回収期業」として創設された華融がいかに腐敗を極めた企業かについては、拙著『米中「利権超大国」の崩壊』をぜひお読みください。

華融は、今までのところ償還期限の来た社債はぶじ償還しています。ですが、次の2枚のグラフをご覧ください。



2026年とまだあと5年の償還期限を残した米ドル建て社債は、価格が額面を大きく割りこんでいます。

一方、利回りはこの低金利の世の中で約12~15%と、今後5年存続することが疑問視されている会社だとわかります。


そこでご注目いただきたいのは、この臨時株主総会に向けた約3週間のうちに中国政が華融を救済する意思を示して、華融ドル建て債の価格上昇・利回り低下といった方向に動くかどうかです。

この期におよんでも華融のような利権経済を象徴する不採算企業を救うようでしたら、中国共産党一党独裁体制は中国経済を道連れにして崩壊への道をたどるでしょう。

もし、はっきり華融のような国有企業を見殺しにしてでも、民間企業が活躍しやすい金融行政に転換する方向に動いたら、当座は国有企業の株や社債を持っている投資家の失望によって中国金融市場は混乱するでしょうが、中国経済全体としては生き延びる可能性が出て来ると思います。

この文章はいかなる投資スタンスを推奨するものでもありません。あくまでも読みものとしてお楽しみください。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

hiroyukiF さんの投稿…
近著を買い読ませていただきました。大変に勉強になりました。8月17日を過ぎましたが、中国華融臨時株主総会に関する報道が日本語ではありませんね。中国語では出ていたのでしょうか?
hiroyukiF さんの投稿…
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-16/QXWSBBDWRGG101
ブルームバーグにこの記事が出ていましたが、このせいで発表は先送りになったのでしょうか?
hiroyukiF さんの投稿…
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-18/QY0J28DWRGGD01?srnd=cojp-v2
こんな記事も出てきました。
増田悦佐 さんの投稿…
hiroyukiFさま
コメントありがとうございます!
中国語を読めませんので、現地報道は確認できていません。
ただ、今までチェックできたかぎりでは英語の金融情報サイトにも「臨時株主総会開催」のニュースは出ていません。

リンクしていただいた記事のような情勢急変があったので、臨株はおそらく延期になったのだろうと思います。
hiroyukiF さんの投稿…
ご返信いただきありがとうございます。