不思議なアメリカ英語 展開図は『Net』

こんばんは 


 

展開図は英語で・・・

3次元の物体を平面に落とし込んだ図面のことを展開図と言います。みなさん、この展開図を英語で表現するとなんと言うか、ご存じでしょうか。

 

Extended ViewとかExtended Patternとは言わないだろうとは予測できました。Extendedという単語には押し広げられたというニュアンスが強いのですが、立体を平面上に表現するとき、その立体を拡大するわけではないからです。

 

そこで私は、平らに押しつぶしたという意味で、Flattened ViewとかFlattened Patternと表現するのではないかと思ったのです。

 

ですがつい最近、少なくともアメリカ人のあいだでは、まったく違う表現をすると知りました。なんと、Net viewとかNet pattern、あるいはもっとかんたんに、ただNetと言うだけで展開図の意味があるらしいのです。

 

たとえば、おそらく小中学生向けの教材ビデオクリップを紹介するtopprというウェブサイトをのぞくと、『Nets for Building 3D Shapes3次元のものを造るための展開図の書き方)』というビデオが用意されています。


いったいどうして『net』なのか

Netの語源は、虫や魚をすくい取ったり、あるいは逆に虫が家に入ってくるのを防いだりするために使う網のことです。そこから派生した動詞として、(網を使って)すくい取る、あるいはからめ取るという意味も出てきました。

 

さらにそこから派生して、純粋なとか、正味のという意味でもNetという概念がひんぱんに使われるようになりました。これは経済・金融・会計の分野で仕事をしている人には欠かせない、Gross(粗)との対比でのNet(純)という表現です。

 

たとえば、売上高から原材料費と労賃を引いた金額を粗利益(Gross Profit)と言います。これに対して、販売管理費や減価償却費や金利負担や税金を引いたあとに残る利益のことを、純利益(Net Profit)と呼びます。払わなければならない費用は全部払ったあとで残る、正味の利益という意味です。

 

この粗に対する純という意味でのNetは、一見魚を捕るための網とはなんの関連もなさそうに思えます。ですが、ちゃんと関連はあるのです。魚を捕るときには海や川の水と一緒に網ですくい取るわけですが、そのとき、水は要らないので網の目からこぼれ落ちるようになっています。

 

つまり、網で欲しいものだけをすくい取るように、欲しいものだけが残った状態をNetと表現するのです。というわけで、日本語で純利益の純に当たることばとして網と同じNetという単語を使うことには、しっかりした根拠があるわけです。

 

でも、立体を平面に開いた図面のことをNetと呼ぶのは、どんな根拠にもとづいているのでしょうか?

 

立体を構成している底辺、天井、四方の壁すべてを平面に書き起こすことには、混ざりものを取り除いて正味にするという意味はありません。もちろん、網を使ってすくい取ったり、からめ取ったりするわけでもありません。どう考えても、Netと表現する理由がわからないのです。

 

アメリカ教育の危機?

そこで考えたことがあります。これはきっと、おとなたちのあいだでさえボキャブラリーが極端に小さくなるとともに、少しでも音節や字数の多い単語を、意味は不正確でも音節も字数も少ない単語に言い換えようとする現代アメリカ社会に特有の表現なのではないかということです。

 

たとえば、正しいという意味のRight(ライト)という単語も、発音しないghをのぞき、リットと発音しないように最後にe1字を加えて、Riteとつづるケースが多くなっています。バイ・ライトという「賢く買ってください」という意味の店名の安売り酒屋チェーンは、Buy Riteと書きます。また、軽め(Light)の味のビールを意味するライト・ビアも、Lite Beerとつづることが多いようです。

 

私の個人的な趣味も影響して、お酒に関連する例が多くなりました。ですが、Liteのほうが正しい書き方になっている金融用語もあります。コベナントとは、おカネの貸し借りに関する約束をまとめた文書のことです。法律家に相談するコストを下げるために、この約束の条文をかなり簡素化したものをコベナント・ライトと言います。これは、Covenant Liteとつづるのが正しいスペリングのようです。

 

条文による縛りがゆるやかな分だけ金利を高く設定してあるので、貸し手にとって損はないという想定だったのでしょう。ですが、200709年の国際金融危機で、債務不履行が続出した際には、条文を簡素化したコベナント・ライト契約だった債務が不履行となる案件がとくに多かったようです。

 

ことばひとつでさえ、なるべく短く、なるべく単純そうに見える単語を選ぶ風潮が、わずかな法律上の経費節減のために、結局大損となる契約での融資の流行に一役買ってしまったと言えないでしょうか。

 

Q. 地続き48州はなんという?


最後もなぞなぞのようなアメリカ英語で締めましょう。アメリカ合衆国は、50州で構成されています。北米大陸中央部に大西洋岸から太平洋岸までつながって位置する48州と、同じ北米大陸の中にあっても一度カナダとの国境を越えないと陸伝いに行くことはできないアラスカ州、そして太平洋のほぼまん中にあって、海を渡るか、空を飛ぶかしないと行き着けないハワイ州です。

 

さて、陸続きで行くことのできるひとかたまりになった48州のことをなんと言うか、ご存じでしょうか? この表現は、おそらくだれかに教えてもらった人以外には、想像もつかないでしょう。








A. Lower 48 States.

直訳すれば「低いほうの48州」と言うのです。

 

一応、理屈はあって、「アラスカ州に比べれば緯度が低いし、ハワイ州に比べれば年間平均気温が低い。だから低いほうの48州だ」というわけです。でも、こんな一休さんのとんち問答のような屁理屈で、ひとつながりの48州のことを表現するのは、おかしくないでしょうか。

 

48州は平均気温ではアラスカ州より高いし、緯度ではハワイ州より高いからHigher 48 States(高いほうの48州)だ」と言ったって通用するはずです。きっとHighという単語には発音しないghが入っているのでつづりを間違える人が多いだろう程度の理由で、Lower 48 Statesと呼ぶようになったのでしょう。

 

これはやはり、大げさではなくアメリカ初中等教育の危機を示すことば遣いだと言っても過言ではないでしょう。と言うのも、日本語で言えば「地続きの」という形容にぴったり当てはまることばが、ちゃんと英語にもあるからです。それはContiguousという単語です。

 

辞書を引くと、最初に出てくるのは、「隣接する」とか、「隣り合った」という意味で、48州が全部隣り合っているわけではないので、ちょっとニュアンスが違うように感じます。でも、ややくわしい辞書をきちんと読めば、「連続した」、「切れ目のない」、「ひとかたまりの」といったまさに「地続きの」にぴったりの形容詞だとわかります。

 


言葉に表れる!

なぜこれだけ適切な表現を使わないのでしょうか。よく言われる理数系だけではなく、アメリカ人にとって国語に当たる英語教育も、公立小中学校などでは崩壊寸前というほど劣化しているからです。

 

こうして、短く、一見単純明快なことばばかり使っているうちに、だんだん表現もあいまいになるだけではなく、人と人との約束もきちんと守る人間がバカを見る世の中になっていったというわけです。

 


読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント