設備投資需要が激減しているのに 銀行株指数は絶好調という不思議

こんばんは
今日はアメリカの銀行業界についてお話しします。
 

企業の財務責任者は、設備投資の必要を感じていない


全米大手企業の最高財務責任者に設備投資動向を聞く、デューク大学のアンケート調査で「設備投資低迷の理由」を複数回答OKで聞いたのが次のグラフです。

 



 

ご覧のとおり、去年の79月でも半数以上が設備を拡充する必要を感じていなかったのですが、今年の13月では、なんと約3分の2が拡充不要と言っています。

 

もちろん、財務担当者はなるべく財布のヒモを締めようとするのが仕事ですから、この回答の多さ自体は「いつものこと」と考えることもできます。でも、そこにはきちんとした根拠があるのです。

 



 

アメリカ全産業の設備稼働率、つまりすでに設置された機械装置などがどの程度実際に動いているかを示したグラフです。70年代末までは天井で90%近く、底でも75%近い稼働を確保していました。

その後景気サイクルとともに天井も底も低くなり、直近では天井でも80%を割り、底では65%まで下がっています。

 

つまり、現代アメリカ経済は慢性的に設備過剰で、稼動率が落ちているわけです。設備投資があまり必要ないということになれば、銀行業界にとってもっとも安定性の高い分野である、低い金利で預かった預金を高い金利で貸してサヤを抜くという融資事業にも支障が生ずるはずです。

 

銀行預貸率が急激に下がっている


この点もデータで明瞭に確認できます。



 

これはアメリカの4大銀行、つまりバンク・オブ・アメリカ、JPモルガン、シティバンク、そしてウェルス・ファーゴの預金総額と、融資総額を示すグラフです。融資総額を預金総額で割った比率を預貸率と言って、銀行経営の健全性を測る尺度のひとつとなっています。

 

預貸率が80%以上であればほぼ健全経営、70%台はボーダーライン、60%台になると危険信号と言われています。アメリカ4大銀行の場合、サブプライムローン・バブルの崩壊が始まった2008年の時点でもほぼ100%の預貸率を維持していました。

 

ところが、国際金融危機の大底となった2009年以降2015年ぐらいまで、預金は伸びているのに融資がほとんど伸びず、預貸率が急低下する時期が続きました。2016年からは融資総額も徐々に回復しはじめたのですが、2020年のコロナ騒動以降、また下落に転じました。

 

一方、預金総額のほうは、2019年以降、政治社会情勢が不安定性を増すに連れて、急速に伸びています。


その結果、アメリカ4大銀行の預貸率は、2009年以降延々と下げつづけ、2019年以後の2年間で急低下しました。20213月末の数字では預金が約69000億ドルに対して融資総額が35460億ドルなので、51.4%とかろうじて50%台に踏みとどまっている状態です。

 

預貸率から見るかぎり、アメリカ銀行業界の経営に不安定性が増したのは、預貸率が低下しはじめた2009年以降のことです。でも私は、アメリカの全産業の設備稼働率が天井も底も低くなり始めたのは1990年代のことなので、むしろ1990年代から2008年までは預貸率が100%近い数字を維持してきたことのほうに無理を感じます。

 

中小の住宅ローン専業会社ばかりか、大手銀行まで本来なら住宅ローンを借りられるだけの信用度のない人たちに、サブプライムローンという金利は高いけれども債務不履行リスクも高い住宅ローンを提供するようになったのも、かなり危ない橋を渡ってでも100%近い預貸率を維持するという方針から出たことではなかったでしょうか。

 


こんなに事業環境の悪い銀行株の好調は異常



アメリカだけではなく、世界中で設備稼働率が低下し、銀行預貸率も下がっています。理由はかんたんで、事業を維持発展させるために、あまり巨額の設備投資を必要としないサービス業が、巨額の設備投資を必要とする製造業に代わって、経済全体を牽引する産業となったことです。

 

当然、経済サービス化の進んでいる先進国ならどこでも、銀行の業績はじりじり下がっていたはずです。日本は1990年からいち早くこの預貸率の低下と銀行業績の悪化が表面化しました。銀行経営者にあまり頭にいい人たちがいなかったので、事業環境の劣化をすなおに反映した経営をしていたからでしょう。

そして、ヨーロッパ諸国の銀行業界も日本の銀行を追って経営が悪化しました。

 

ところが、頭のいい人たちが経営しているアメリカの銀行業界は、なんとか帳尻合わせをして預貸率も2008年まで100%近い水準を維持してきました。その結果、どんどん危ない経営に変質しながらも、表面的には好業績を上げつづけています。

 

ただ、銀行業界の株価は、ほかの業種に比べるとかなりの低迷状態に放置されていました。私は「株式市場は、そうかんたんに表面的な業績にはだまされず、見るべきところを見ているんだな」と感心していました。

でも、それもだんだん怪しくなってきたようです。今回ご紹介する最後のグラフでおわかりのように、バイデン政権誕生以来銀行株が急上昇しているからです。

 



 

銀行株指数自体の120という水準は、サブプライムローン・バブルがはじける前の2006年とほぼ同一です。でも、当時は200日移動平均と一緒に上がっていたのです。今回は、200日移動平均をはるか下に置き去りにしたままの急騰です。アメリカの銀行株、そして金融業界はかなり危ない状態になっているようです。

 


 読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

どいとしき さんのコメント…
アメリカの銀行預貸率が急激に下がっている「実体経済」の不思議さは、もはや「サービス」産業の先端として、世界恐慌が避けられない、ということだろう。
増田悦佐 さんの投稿…
土井さん
サービス業主導時代にふさわしく地味に稼いでいれば、こんなに無理を重ねることもなかったのでしょうが、銀行業界のトップともなると、アメリカでも飛び抜けて強欲な人たちの集まりですから、わかっていても危ない橋を渡ってしまうんだろうと思います。