アメリカで殺人犠牲者数激増 長期にわたるロックダウンの影響か?

おはようございます


 

毎年FBIが発表している『アメリカ犯罪白書』の2020年速報版で、多事多端だった2020年にアメリカ国内で殺人事件の犠牲者数が激増していたことがわかり、話題になっています。

 



 


21世紀に入ってからのアメリカは、200002年のハイテク・バブルの崩壊や、200709年のサブプライムローン・バブル崩壊と、経済・金融方面では危機が続出していました。ところが、殺人事件犠牲者数を見ますと、ご覧のとおり、暴力事件の多いお国柄としては非常に急速に殺人事件の犠牲者が減っていたのです。


201214年の殺人事件犠牲者数は、アメリカ史の中では例外的に低かった1950年代から60年代前半に達成していた10万人当り4.5人前後にまで下がっていたのです。1970年代末から80年代初頭の910人と比べると、約半分に下がったわけです。


経済・金融情勢だけを見ているといつ崩壊してもおかしくなさそうなアメリカの社会秩序がなんとか大きな破綻を見せずに平和を維持できていたことについても、この殺人事件の犠牲者数が急激に減っていたという事実がかなり貢献していたのでしょう。


1年あたりの殺人の増加率が過去50年で最大に


ところが2020年の速報値ベースの殺人事件犠牲者数は、2019年の10万人当り5.0人から一挙に5.8人に急上昇していました。まだ確定値が出ていないので正確な比較はできませんが、これは過去50年間で1年当たりの増加率としては最大になりそうです。



一体なぜ2020年にアメリカで殺人事件の犠牲者数が激増したのか?


この年が2019年までと違っていた最大のポイントは、世界各地で新型コロナウイルス、コヴィッド-19が蔓延し、とくに被害の大きかった欧米諸国ではロックダウンと呼ばれる厳重な都市封鎖や不要不急の外出禁止が実施されたことでしょう。


次のグラフで、コヴィッド-192020年にアメリカ国民の生死にどれほど大きな影響を及ぼしたかが、はっきりわかります。

 



 

2020年のアメリカ国民の主な死亡原因については、まだ確定値が発表されていません。そこで上のグラフは、確定値の出ている2019年のアメリカ国民の死亡原因ワースト10と、アメリカでも本格的にコヴィッド-19の犠牲者が出始めた去年326日から、今年の325日までの累計犠牲者数を比較したものです。


アメリカでは2019年までは、ほぼ毎年心臓病と癌(がん)が主な死亡原因の12位を占め、人口10万人当りの死者数でも180200人と突出していました。そして、事故、呼吸器下部疾患、脳血管障害など3位以下は10万人当りで50人台以下にとどまっていました。


ところが20203月末からの丸1年間の累計では、コヴィッド-19の犠牲となって亡くなった方々が約54万人に達し、人口10万人当りで164人と、2位の癌に近い数字となっていたのです。アメリカで2020年に殺人事件の犠牲者数が激増したのも、なんらかのかたちでコヴィッド-19が大流行したことと関連があるのは、間違いのない事実でしょう。



COVID-19の蔓延との関係 


でも、コヴィッド-19の蔓延自体が、殺人事件を多発させる要因になったということが考えられるでしょうか。政府や自治体や医療施設の対応が悪かったために自分の家族が犠牲となったと思った人たちが、復讐のために殺人事件を起こすというのは、開拓時代の西部や、大都市の裏社会を支配するギャング団が隆盛をきわめていた時代にはあったかもしれませんが、現代社会でこうした復讐を動機とした殺人の犠牲となった方々が激増するとは考えにくいです。


しかし、民主党系の州知事や市長が大きな権限をふるっていた州や都市で、厳格なロックダウンを実施していたという事実は、殺人事件の多発とかなり大きな関係があったと考えるべき根拠があります。殺人犠牲者数がシカゴでは前年比で55%増、ボストンでは54%増となっているのは、その典型でしょう。


未知の他人より知人

アメリカでは銃砲の所持がほぼ野放し状態のため、銃を使った大量殺人事件や連続殺人事件がたびたびマスメディアで報道されます。そのため、殺人事件の犠牲者は、こうした大量殺人や連続殺人を犯す見知らぬ他人にまったく偶然に遭遇したために命を奪われるケースが多いと思いがちです。


でも、実際には、アメリカでも殺人事件の犠牲者は未知の他人に殺されるより、家族、近い親族、友人、知人に殺されることのほうが多いのです。ちょっと古いデータですが、2014年にアメリカで起きた殺人事件の犠牲者が犯人とどんな関係にあったかを円グラフにすると、以下のとおりになります。

 



 

パートナー間、親子間、兄弟姉妹間など、親密な間柄での殺人だけで全体の21.3%にのぼります。祖父母と孫、叔父叔母と甥姪、いとこ同士が2.3%です。そして単独では最大の比率となる、顔と名前が一致する程度の知り合いに殺されるケースが20.2%でした。


一方、まったく面識もない他人による殺人は、全体の11.5%に過ぎません。また、推理小説などでは定番となった感のある経営者と従業員のあいだの殺人はわずか0.1%で、この円グラフにも色が出てこないほど少数なのです。


なお、犯人不明のケースが45.5%と全体の半分近くを占めています。「この犯人不明の殺人事件のほとんどが未知の他人による犯行だったとすれば、やっぱりアメリカの殺人事件は見知らぬ他人の犯行が多いのではないか」という疑問も出てくるかもしれません。


しかし、実際には派手に報道される大量殺人や連続殺人の犯人はたいてい検挙され、刑も確定することが多いのです。迷宮入りする殺人事件の多くは、被害者の人数が少なく、有力な動機を持った容疑者が身近にいるけれども、物的証拠がつかめないうちに時効がきてしまうケースです。また、アメリカの法廷では、殺人のような重大事件はほぼ例外なく陪審員の評決で有罪・無罪が確定します。当然、有能な弁護士を雇える金持ちは、そうとう嫌疑が濃厚でも無罪判決を受けることができます。




ロックダウンで募らせる鬱憤が原因か


そして、長いロックダウン期間は家族だけで家に閉じこもって過ごした人たちが多く、通勤や通学で適度に顔を合わせずに済む冷却期間が取れないために、感情のもつれから家族に対する殺人が多発するということになったのではないでしょうか。2020年の殺人事件激増を取り上げたウェブサイト『Mises Wire』は、もうひとつ重要な指摘をしています。


それは、ロックダウンは通勤・通学の機会を奪っただけではなく、人間生活に潤いを与える「サードプレイス」に出かけて息抜きをする機会も奪ったのではないか、それが拡大する一方の貧富の格差によってすさんでいたアメリカの中流の下から下層に属する世帯のあいだで殺人事件を激発させたのではないかということです。


サードプレイスとは、家族のように濃密な関係もなく、職場や学校のように業績や学業成績を競い合う場でもなく、あまり利害関係のない人たちと気軽に交流できる場所のことです。このサイトでは、サードプレイスの実例として教会、公園、リクリエーションセンター、床屋、美容室、スポーツジム、ファミリーレストランといった場所を挙げています。


サードプレイスに呑み屋は無い


このリストについて、日本人で酒を呑む方なら当然列挙すべき場所が素通りされているなと感じられる方が多いでしょう。そうです。居酒屋、大衆酒場、バーといった「吞みニュケーション」の場所が落ちているのです。アメリカのクルマ社会化がほぼ完成し、通勤通学だけでなく、近所への買いものまでほとんど自動車で出かけるようになった1960年代からは、呑んでしまった後は勤務先から「呑める」サードプレイスまで運転してきたクルマをいったいどうするのかという大問題に悩まされることになったのです。


家族で出かけるときには運転席に座ることの多い勤労男性にとって、職場や家庭のしがらみを逃れて一息入れられる場所が、ほんとうに少なくなっています。もちろんそれは、アメリカで夫であり、父親である人たちが妻子に対してふるうドメスティック・バイオレンスが多いことの言い訳には、まったくなりません。ですが、アメリカで暴力事件が頻発する背景にこうした事情があることは、認識しておくべきでしょう。


読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

Unknown さんの投稿…
痛み止めと称する薬「オピオイド」、本当は麻薬もどきを、一女医が薬剤師として蔓延死させたことが、端を発したことも、本ブログに関連性がある気がします。
増田悦佐 さんの投稿…
コメントありがとうございます。今度オピオイドについて書く際にこの点についても言及するつもりです。