第5回 7/10「劣等生にしか見えなかった日本が、じつは いちばん適応上手だった」

 日本の固定資産投資額の対GDP比率は工業化後発国並み


 まず、200817年の9年間でG7諸国の設備投資がどう推移していたかをチェックすることから始めよう。次のグラフの上段は、2008年第1四半期を100とした指数表示で、固定資産投資額の累積変化率を示している。

 



 

 アメリカ、イギリス、ドイツが国際金融危機以降、ほぼ一貫して固定資産投資を増やしていた。カナダはこの危機からいち早く抜け出して、かなり大幅に固定資産投資を伸ばしたが、その後減少に転じて、2017年第2四半期では日本同様ほとんど横ばいに近い微増となっている。フランスは結局2008年水準に届かない微減にとどまった。201315年のユーロ圏ソブリン(国債)危機の影響がG7諸国で最大だったイタリアは、固定資産投資が2008年の7割に下がってから、ほんの少し回復しただけだ。このグラフを見るかぎり、日本の固定資産投資がとくに過大だった形跡はない。


 下段は、同じ期間内で固定資産投資の対GDP比率がどう変化したかを示したグラフだ。こちらは、日本の固定資産投資が25%弱と初めからG7諸国最大で、途中3位まで後退したことがあったが、最後にはまた最大に戻っていることがわかる。つまり、日本は国際金融危機に突入した時点で、すでにG7注最大の固定資産投資をしていた国だったのだ。この25%弱という数値は、もっと多くの国々との比較で見るとどういう位置にあるのだろうか。次の表をご覧いただきたい。

 



 

 19972017年という20年間の平均値で測ると、OECD加盟30数ヵ国の中で日本はスペインと同率の7位だ。日本より上位に位置するのは、唯一30%台の韓国も、その下の旧ソ連東欧圏5ヵ国も、工業化で先進諸国には後れを取っていた国々だ。つまり、日本の固定資産投資額のGDPに占める比率は、キャッチアップ途上の国々と同じ水準にいることになる。明らかに、サービス主導型経済に転換した国々の中では過大な投資をしているのだ。その過大な投資は主として製造業でおこなわれているのだろうか。


 各国粗固定資産投資の対GDP比率をもう少し細かく分類したものと、資本装置の平均年齢推移というふたつの角度から、検討してみよう。まず、次の表から見ると、日本の粗固定資産投資の内訳には、とくに怪しげなところは見当たらない。

 



 

 同じ20年間でOECD諸国の粗固定資産投資がどんな分野で行われていたかを示す表だ。まず日本の住宅建設は、粗固定資産投資総額の15%を切っていて、かなり低い位置にある。これだけ少子高齢化と家あまりの時代になったのだから当たり前だが、バブル期に建設・住宅・不動産担当のアナリストをしていた身としては、まさに隔世の感がある。


 住宅以外の建物・構造物では30.8%と、20%台半ばが多い先進諸国の中でやや高めだ。だが、イギリスが33.2%になっているので、突出して高いわけではない。その他機械・器具の28.4%は、まさに先進諸国の中団、密集地帯にいる。この分野では、旧ソ連・東欧圏諸国や南欧でもとくに工業化が遅れていたギリシャは30%台後半から40%台になっている。


 きっと知的財産投資への移行が遅れているだろうと思っていたのだが、日本は、ここで意外に検討している。スウェーデンの27.7%とアメリカの23.8%が突出した1位、2位で、日本の20.8%は団子状態で3位グループを形成している8ヵ国中の、ちょうど真ん中に当たる数字だ。むしろ、アメリカの23.3%にもかなりうさん臭い詰めものが混じっているので、それよりさらに4ポイント以上高いスウェーデンの27.7%にも怪しいものがありそうな気がする。


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8. 生産装置の平均年齢は好ましい推移を示している 12/7 10時更新

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